愛され系男子のあざとい誘惑
「それにしても暑いなあ。この時間はいつもこんな感じ?」

「俺ものど渇いた」と私の隣に座り、水を飲む男性。こんなことを聞いてくるということは、今日はたまたま早く出社したということかな。


「はい。大体空調がつくのは八時以降で皆さんが出勤される頃なので」


「そっか。じゃ、俺管理室の田中さんに頼んでおくよ」


「いえいえ。そんなこと・・・」


「こんな暑い中、掃除してもらってたなんて気づかなくてごめん」


「わ、私、そろそろ仕事に戻ります。急いで掃除しますのでご迷惑をおかけして本当にすみませんでした。お水ごちそうさまでした」


お水の残ったペットボトルを掃除道具のカバンに詰めて掃除を再開。彼は「もっとゆっくり休憩してていいのに」と言ってくれたけれど、そんなことできない。


ドキドキが止まらないから。彼がいた部屋を後にしてすぐ残りの部屋の掃除に取り掛かった。


「ちょっと優美(ゆうみ)さっきからペットボトルじっと見つめてるけど、なんかあった?」


残っていた部屋の掃除と他フロアの窓磨きなどすべて終わらせて休憩室へと戻ってきた。でもさっきの出来事にまだポーッとしたまま。


そんな私にさっきから声を掛けてくるのは、別の企業担当の三崎京香(みさききょうか)。長い髪を一つに束ねた姉御肌の彼女は、私と同じ24歳。ここで働くようになってすぐに仲良くなった友達。
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