愛され系男子のあざとい誘惑
「あっ、ごめん。何もないよ」

「何もないって顔してないわよ。まだ時間あるんだから付き合いなさい」

私は昔からすぐ顔に出るタイプで隠し事はできない。隠そうとすればするほど怪しまれる。バカ正直な性格。まあでも今は少し聞いてほしいこともあったので、着替えを済ませて、隣のカフェで優美と話すことにした。

B.C. square TOKYOの22階のワンフロアは私たちクリーンスタッフ専用の休憩スペースになっていて、セルフサービスのカフェやコンビニなどもある。私と京香はよくそこで一杯300円のコーヒーを飲んで話をしてから帰ることが多かった。今日も三日前と同じ場所に座り、二人仲良くアイスコーヒーを頼んだ。

「で、なにがあったの?」

「・・・あのね、実は今日素敵な人に出会ったの」

私はさっきまでの出来事を京香に話した。素敵な人に出会ったこと、お水をもらったこと。優しい言葉を掛けてもらったこと。そしてその人にドキドキしてしまったこと。

「へえ。このビルにそんな人もいるんだ。大抵、私たちのことなんてみんな見下してるものかと思ってた。何?好きになっちゃったの?その人のこと」

「す、好きなんて。そんなんじゃないよ。本当に素敵な人だなとは思ったけど。でもほらここで働く人たちなんてすごい人ばかりでありえないよ」

クルクルとアイスコーヒーをかき混ぜて口にする。いつもはこの一杯がとても美味しいのに今日はなんだかあまり味がしない。


「ねえ、その人に明日も会えるかもしれないよ。その時にはちゃんと名前くらい聞きなさいよ」

「そんなの無理だよ。それに今日はたまたま早出だっただけで明日いるとは限らないし」

京香にそう言いながらも内心では、もう一度あの人に会えればという気持ちでいっぱいだった。
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