愛され系男子のあざとい誘惑
この人たちに私がここで働いているとバレると藤澤社長に迷惑がかかるかもしれないと思った私はその日から彼女に見つからないようにしなくてはと思うようになった。でもそんな日々がいつまでも続くわけがなかった。


「ねえ、そこの掃除の人。そこにコーヒーこぼしたから拭いてくれない?」


私は彼女に背を向けているから顔は見られていない。でも今振り向けば確実に顔を見せることになる。こんなときに限ってマスクすらつけていない。「早くしてよ」と急かされ、覚悟を決めた。


「早くしなさいよ、ここ、拭いて」

「わ、わかりました」


俯いて顔を隠しながら、早くコーヒーを拭いて彼女から離れよう。気づかれないうちに。


「ねえ、あなた。見たことある気がするんだけど・・・あっ!藤澤社長と一緒にいた女!」


大声で指を刺された。周囲の目が一瞬にして私へと向いた。何も言っちゃいけない。反応したら相手の思うツボ。言いたいだけ言わせておけばそのうち立ち去ってくれるはず。


「まさか、あなたここの掃除のおばさんだったの?掃除のおばさんが藤澤社長と2人でランチなんていい身分よねー。あっ!何か秘密でも握って脅したんでしょ?でなきゃあんなイケメンでかっこいい藤澤社長があんなみたいな掃除のおばさん相手にするわけないし」


我慢、我慢。言い返したら負け。自分にいい聞かせる。私が何も言い返さないことに腹を立てたらしく彼女は言葉を強めた。
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