愛され系男子のあざとい誘惑
翌日、彼はいなかったけれど、一つだけ昨日と違うことがあった。

「涼しい」

私が会社の中に入ると空調が効いていた。きっとあの人が言ってくれたんだ。そう思うとますますうれしくなった。午前8時。掃除は早く終わらせた。それなのに、ウエスを持って窓を磨いているふりをする私。


視線の先は玄関のドア。あの扉が開けばいいのにと願ってしまう。でも、8時を過ぎても彼は現れることがなかった。


やっぱり、昨日はたまたま偶然だったんだ。浮足立った気持ちにふたをして、掃除道具を片手に戻ろうとしたとき誰かの足音が聞こえた気がした。


「よかった。まだいた。コーヒー買ってきたんだ。こっち眺めいいからこっちで一緒に飲もう」


胸がすごくドキドキと音を立てて高鳴っている。どうしよう、今、すごくすごくうれしい。会えないと思っていたのに会えた。それだけじゃない昨日は見ることの出来なかった笑顔を向けてくれた。泣きそう。


「どうしたの?こっちおいで」


「あ、あの・・・仕事が終わったので失礼します」



「待って。せっかく買ってきたんだし、飲んでくれないかな?ここのコーヒーすごくおいしいんだ。それに君が飲んでくれなきゃ、俺二杯も飲まなきゃいけなくなし。一緒に飲んでくれる?」


今の私にそんな子犬のように甘える目で言うなんて、断れるわけがない。むしろ大歓迎。掃除は終えていたから大丈夫と自分に言い聞かせ、6番の部屋に入った。


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