愛され系男子のあざとい誘惑

「優美、キスで起こしてくれないの?」
「ネクタイ、結んでほしいんだけどダメ?」
「仕事行きたくないなー。優美とこうしてたい」


ヒロさんと結婚して半年。結婚式も新婚旅行もすごく幸せだったけれど私はまだまだヒロさん、藤澤寛人のことを知らなすぎた。まさか毎日こんな風にあざとい誘惑をされるなんて。


「ねぇ、優美。そろそろ家族を増やそうか。二人でも十分幸せなんだけど、もっと幸せになるかなって思うんだけどどう?」


そんな風に言われたら断れないってわかってるくせに。私の王子様は素敵なビルの中で今日も私だけにあざとく誘惑を繰り返す。そして、私はいつもその誘惑には勝てない。


「・・・子どもばかりじゃなく私にもちゃんと構ってくれる?」


「もちろん。だって俺の一番は仕事でも子どもでもなく、優美だよ。それをわからせてあげるから今日も覚悟してね」


クリーンスタッフとして働いているときには夢にも思わなかった私のシンデレラストーリー。きっとこのビルの中にはそんなシンデレラストーリーがたくさんあるのかもしれない。



エレベーターに乗り込む。2階のカフェは最近よく頻繁に行くお気に入り。デカフェといってカフェインレスのコーヒーも用意してくれているから私にはとてもありがたい。

6階の和食のお店は、つわりでご飯が作れなかったとき、つわりでも食べられるものを作ってくれた。

そのまま通り過ぎて28階に行きたいところをここもスルー。だって隣にはヒロさんがいるから。

そして着いた54階。舞さんに挨拶をしてそのまま突き進むとオートロックがある。その鍵を開けて、エレベーターに乗り込んで52階へ。

「ようこそ、私たちの赤ちゃん。ここが今日からあなたのお家だよ」


行き方もどこにあるかも知っている人間はごくわずか。そこに今日一人家族が増えたけれど、まるでここは私たちだけの秘密のお城みたい。そんな気がした。
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