愛され系男子のあざとい誘惑
私が感想を言うと嬉しそうに聞いてくれる彼。昨日飲んだコーヒーの味とは全然違う。お砂糖は入ってなさそうなのに甘く感じるし、とても美味しい。

「あの、空調の件ありがとうございました」

「いえいえ。他にも何か要望があったら言ってくれたらいいよ。管理室の田中さんは優しくていい人だからさ」

数分だったけれど、コーヒーを一緒に飲めて本当に幸せな時間だった。本当ならもっとゆっくりしていたいけれど、そうもいかない。「ごちそうさまでした」とお礼を言って、掃除用具を持った。

「それ、制服?かわいいね。明日もまた同じ時間に来るよね?」

「え?あ、はい。仕事なので掃除させていただきます」

「良かった。また明日も会えるね。明日はもっと早く来るようにするから」

「なにそれー!一日で進展しすぎでしょ」

休憩室に戻ってしばらくすると京香が私を見るなり、「どうだった?」と聞いてくるものだから私たちはまた今日の出来事を話すためカフェに行った。


「うそー!」と声をあげる京香。私だってまだ信じられない。あの人に明日も会えるなんて。


「すごいじゃない、優美。もしかしたらLiglossの社員と付き合えるかもしれないわよ。だって私、聞いたんだけどあのフロアで働いている人たちって年収4000万とからしいよ。あんた玉の輿じゃない」


「玉の輿ってそんなの気が早すぎるし、ありえないよ」


「でも相手はあんたのこと気にかけてくれているみたいだしいいじゃない。絶対に脈ありよ。いい?明日は絶対に名前聞くこと。わかったわね?」


京香にそう念押しされたけれど名前なんて聞けるはずがない。ちょっと優しくされただけ。こんな雲の上にいるような人が私なんて気に掛けるはずがない。


昔、失敗したほろ苦い思い出が蘇った。

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