スパダリ副社長の溺愛がとまりません!
貴也さんとの打ち合わせは、本社で行われる。イルビブという名はブランド名で、企業としての名前は『株式会社 久遠寺』だ。

オフィスビルに本社は入っているけれど、名だたる大企業の名前が連なっていて、部長がため息をついた。

「俺たちの設計事務所は小さな会社なのに、つくづく取引先の凄さを実感するよな」

「そうですね。でも、それだけうちが質のいい仕事をしているってことですよ。業界では、けっこう有名なんですから」

と力説すると、部長は笑顔を見せた。

「広瀬の言うとおりだ。じゃあ、行こうか」

「はい」

ビルの正面玄関を入りながら、この先に橘トラストホールディングスがあるんだと思ってしまう。

近くまで来ていても会えないもどかしさを感じながら、部長のあとに続き歩いていった。

約束の場所は三十階にあり、受付を済ませると出入り口から少し入ったところにある応接室に入る。

ほのかにアロマの香りがする部屋で、濃い茶色のソファーに同系色の壁掛け時計があった。

テーブルの縁も同じ色合いで、思わず部長に耳打ちをする。

「茶系統が多いですね」

「ああ。受付のカウンターもそうだったし、好みがハッキリしているな」

部長はうんうんと頷き、部屋を見渡す。すると、ドアがノックされる音がして、貴也さんと広報部長が入ってきた。
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