眠り姫と少年のお話
彼女が眠り始めてから、もう10年近くが経つ。
今から10年程前のあの日、僕たちの街に一人の年老いた魔女がやって来た。そして、その魔女は何の気まぐれか彼女にある魔法をかけた。魔法がかけられた彼女は、どういう訳か覚めない眠りについてしまったのだ。
領主様夫妻は何とか彼女にかけられた魔法を解こうと、名高い魔法使いを何人も屋敷に招いていたようだった。しかし、一向に良い結果が現れず…彼女は眠り続けたまま。
だけど、魔法使いは知識豊富で、彼女にかけられた魔法の正体は判明した。それは魔法というにはあまりに重く、強力で、とても複雑な作りの魔法。
【永遠の眠り】の呪い。
ある物好きな魔法使いによって、とあるお伽話を題材に作られたというその呪い。それを唯一解けるのは、彼女の運命の王子様からのキスだけだという。
そんな呪いがかけられた彼女の話は、噂として町中に広がっていった。
ーー呪いをかけられた可哀想な娘がいるらしい。
ーー呪いをかけられたのは、ここの領主の娘だそうだ。
ーー娘に呪いをかけたのは年老いた魔女なんだってね。
ーー呪いをかけられた子が心配だねぇ。
ーーだが【魔】の力を使う者たちは神聖な立場であることが多い。魔女といえど、それは変わらないんじゃないか?
ーー魔女が何の理由もなく領主の娘に呪いをかけるのか?
ーーもしかすると、その娘は本当は醜い心を持っていて、それで魔女に呪いをかけられたんじゃないか?
ーーなるほど。それじゃあ自業自得かもな。
…彼女を心配するものから心無い疑念まで、本当に様々な噂が出回った。
眠っている彼女がその噂を耳にしないことだけが、ただ幸いだった。