眠り姫と少年のお話
彼女が覚めない眠りについたのは、領主様夫妻からの伝言を聞いて僕が彼女ともう会わないと決心し、「今後は僕に会いに来ないでくれ」と彼女に告げた直ぐ後のことだった。
僕は、彼女ともう二度と会わないということを仲間にも伝えた。すると彼らはほっとしたように表情を緩めて、慰めるように僕の肩を優しく叩いた。
しかし、どうやら彼女は僕が「会いに来ないでくれ」と伝えた後も、僕を探しに町へ出ているようだった。…僕は仲間に協力してもらい、彼女と顔を合わせないように徹底的に隠れた。
それでも彼女は、僕を探すことを止めなかった。
だから、ある時ピタリとそんな彼女の姿を見なくなって、それと同時に彼女が魔女の呪いを受けたという噂が町に流れているのを耳にした時には、とても驚いた。
まさか彼女が、と思った。
偶々、領主様の屋敷から仕入れの為に町へ来ていた使用人の一人に話を聞けば、彼女は呪いを受けて今も眠り続けているのだと教えてくれて…愕然とした。
一瞬で手足の先の熱が引いて、頭の裏側に冷たいものが滑り落ちていくようだった。
それから3年が経った。
その間にも、領主様夫妻は懸命に彼女を目覚めさせる努力をしていたようだが、彼女は相変わらず眠り続けたまま。彼女を目覚めさせる王子様が見つかる様子もない。
そうしてまた一年が過ぎ去った頃、ある一つの出来事があった。それは、領主様夫妻の新たなご子息の出産である。領主様夫妻は、彼女が眠り続ける寂しさからか、彼女に与えていた以上の愛をご子息に注いでいるようだった。
そしてもう一年が過ぎ、彼女が眠り始めて5年が経った頃。突然、領主様夫妻は彼女を町外れの森の奥へと追いやった。
理由は直接聞いたわけではないから分からない。ただ、僕に彼女の話をしてくれた使用人のあの人は「おそらくご子息が可愛くて仕方がなくなり、彼女が邪魔になったのではないか」と言っていた。
領主様の命令で森の奥に建てられた彼女の為の家は、領主様夫妻の娘である彼女が一人で眠るにはあまりに質素で、小さく狭い場所だった。
それは、その家が短期間で建てられた為か、そもそもしっかりと建てる気がなかったのか…その理由は定かではない。
…それでも。それが気休め程度であれ、領主様が魔法使いを使い彼女の眠る家に【結界】を張ったのは、彼女を一人森の奥へ追いやったとしても、親として子を心配する情がまだ少しでも残っていたからだと、そう思いたい。
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