神鳴様が見ているよ
体の震えが止まった蒼は、すっと、鼻を鳴らして、はーっと長い息を吐き出す。
「もう、絶対、手放さないから」
「うん、私だって」
ほっとしたように、背中の手がすこし緩んで、不意に、蒼の右手が左胸に置かれた。
体をきゅっと縮めて、彼にしがみつく。
「好き、理和」
首筋に吐息を混ぜたささやきは、体も跳ねるくらいの鼓動を呼んだ。
「んっ」
思わず、喉を鳴らすと、背中に残っていた手に力が入り、また、蒼の体と隙間なく密着させられる。
「とくとくって、はずんでる」
「あ、蒼、も、いいでしょ、離して」
「ヤダね」
胸に置かれてる手に力が入って押さえるように動くとそこから、カラダに熱が広がり始めた。
とくとく、と早くなる鼓動に合わせて、息もあがり、蒼の手からの熱で、カラダも熱くなってくる。
蒼のその手に触れて、顎を彼の肩から外す。
「蒼、も、苦し……」
背中の手が緩み、蒼の体との間に、隙間ができた。
「こっち向いて、理和」
ずっと、低くて、怒っている強い声ばかりだったのに、急に、キーが変わって、ゆっくりと甘えるような声。
『ピアノ弾く、理和、好き』と、同じ懐かしい声音。
蒼の瞳を見つめるように、顔を上げると、背中の手が頭の後ろを支えるように、登ってきた。
蒼の瞳は潤んで充血していた。
私の視線に気がつき、瞬きをして、気まずそうに瞳を細めた。
そのまま、瞳をふせた蒼の顔が近づいてきて、自然に私も瞳を閉じて、胸の彼の手をきゅっと握る。
「好きだ。やっと、俺の、だ」
唇をかすめながらのつぶやきに、とくっと、心臓が一回大きく跳ねて、体もぴくっと跳ねた。
それをなだめるように、蒼の手が胸を撫でると喉の奥からの息が声にならないで、口に上がってくる。
重ねた唇の隙間から漏れて聞えてくるのは、自分から出てるのが信じられない甘い吐息。
止めたくて、口を閉じたいのに、蒼の唇が許してくれない。
だんだん、その意志をも、奪っていく長いくちづけと、胸の愛撫。
蒼の手に重ねていた手もはじめは震えて力が入っていたのに、汗ばんで、添えるだけがやっとになってきた。
蒼がくちづけの途中、少し、唇を離して、
「父さんと母さんに言う、いい?」
「ん、お願い、します」
また、蒼の唇の先が触れた瞬間、ぱっと、頭に浮かんだのは、
「あ!」
蒼は、ビクッと一瞬、私から体を離して、すぐにウエストに腕を巻きつけた。
「なっ、なんだよ! もう、ナシ言うなよ!」
「それ、ない! 違う! 服っ、乾燥しっぱだぁ」
彼から、顔をそらして、バスの方を見る。
「え、出してないのかよ、ずっといたくせに」
「だって、すぐ着て、帰るつもりだったもん。うわぁ、しわくちゃだ、きっと」
瞳を薄くして私を見つめてる蒼は、はーっと、ため息をつきながら、髪をかき上げる。
「洗えるもんなら、洗ってやり直せば?」
蒼は、顔をふせて、ドアに手をついて立ち上がった。
「洗えるけど……」
「俺、そのほうがいい。その間、理和とふたりでいられるから」
ちらと、蒼を横目で見上げると、彼も、斜め下の視線で私を見下ろす。
「バスに行こ? 一緒に」
「いっ一緒って」
「俺もシャワー浴びたいから、だ」
「んっ、うんっ」
立ち上がって、蒼を追い越して、バスに入る。
「蒼! ちょっと、待って。先に洗濯機、セットするから」
洗剤と柔軟剤を入れて、洗濯機のパネルを操作する。
ピピッと音がして、洗濯機に水が入りだした。
「ごめん、あ」
振り返ろうとしたら、後ろから、蒼がウエストに片腕を回して、もう片方の手で、背中からTシャツをめくり上げた。とっさに胸を押さえて、これ以上、上げられないようにする。
「や、蒼っ」
シャツから手を離すと、今度はハーフパンツを引っ張る。
「これもついでに、洗えばいいから」
「下着だけになっちゃうじゃないっ。やっ」
ブラのホックが外されて、胸が自由になったとたん、シャツが頭から抜けた。
袖が通ったまま、胸を押さえてても、蒼の手が後ろから、滑り込んでくる。
「コレ涙ついてるから、理和の。もう、見たくない」
蒼のも、ね。
「ん、う」
耳にくちづけながらの言葉に、力が抜けて、彼の胸に背を預けた。
「全部、洗ってしまえばいい。理和も、俺も、な」
Tシャツとブラを引っ張るように、剥ぎ取られた。
胸を隠して、屈もうとする前に、彼が私を抱えて、まだ、お湯が張られていないバスタブに下ろす。
そして、お湯を出し始めた。
「え?」
お湯の出てくる方を見てると、蒼がすばやく、私のハーフパンツと下着を一気に脱がした。
「や」
慌てて、膝を立てて、バスタブにしがみつく。
蒼がバスから、出ていった気配の後、洗濯機の蓋を開ける音と閉める音がして、衣擦れの音。そして、こちらへくる足音で、思わず、顔をふせ、バスタブを握ってる手に力が入った。
まだ、そんなに、バスの中はあったまった感じはしないのに、カラダが熱い。
熱い耳に伝わる音はバスの扉が閉まる音とバスタブに足を入れる音、お湯の出る音、私の早い心音。
「理和、こっち向いて」
「やだ、無理。恥ずかしいもん」
背中に、お湯がかけられる。
「いー眺め。理和の背中キレイだなー、ウエスト、細いなー」
体がぶるぶる震えてくる。恥ずかしいのと、からかわれている怒りで。
それでも、我慢してると、背中に蒼の指先の感覚。震えが止まり、体がぴくんと痙攣した。
「りーわ」
指先は背中をなぞりながら、トントンと軽く突く。
そのたび、ぴくっぴくっと、体が縮んで、心臓の鼓動が大きく跳ねて、苦しくて息も荒くなってくる。
「あ、おっ、も、やめて。や」
背中から、指が離れて、彼の手が私のウエストを掴んだ。
ちょうど、お湯が上がってきた辺り。蒼の手の大きさを直に感じて、お腹に力が入り、すっと、背筋が伸びた。
「こっち向いて、理和」
「やだ」
「早くしないと、洗濯終わっちゃうじゃん」
ナニを〝しないと″だ。
「イヤ、シャワー浴びて、出ればいいじゃん」
「シタい」
直球すぎて、言葉が出てこない。
お湯が上がってくるのを追うように、蒼の手も上がってくる。
体が緊張して、力が入る。
「俺、今日、バースディだよ。理和が欲しい、くれ」
なんて言い方、言葉遣いが荒い。
だって、こんなに話したのも、どれだけ、ぶりなの。
蒼ってこういう男の人なの?
声音も、もう少し、柔らかく聴こえていたのに、今の蒼は強い、揺るぎなさそうな声。
「あんな下着姿見せるからさ、我慢出来なくなったんだぜ?」
「うーっ……、あれは、だって」
ぼとぼと、と、お湯の音とは別の液体が入る音。すると、お湯の色がブルーに変わり始めた。
バスの中にミントの香りが漂って、熱いカラダが、すこし落ち着いてくる。
「もう少しすると、濁ってくるから、見えない」
バスタブのお湯が波打って、ウエストに腕が巻きついて、背中に蒼の胸が当たる感触。
「俺のに、したい。今度こそ」
ふぅと、息を吐くと蒼の指が伸びてきて、バスタブを掴んでる私の指を一本一本外す。
「こっち向いて、理和」
バスタブから外された手で胸を隠して、湯煙の中、すこしふせた瞳を光らせて微笑む蒼に男の人を意識して、見ていられなくなって、そのまま、肩に顎を乗せる。
「蒼の、ばか」
ふっと、蒼の笑う息が首筋に当たった。
「なんつーこと言うんだ……」
いつのまにか、お湯は止まって、バスタブの中で水をはじく音と私と蒼の喉からとも鼻からとも言えない声と息が、響く。
お湯から出る肌は、ひんやりとする。
清涼剤が入ってる入浴剤なんだ、ミントの香りとブルーの色は気分を涼し気にさせて夏に合ってる。
「ん、嘘つき」
肌にまとわりつく、お湯の色は透き通ったスカイブルー。
最初の色のまま、混濁なんてしない。
「ごめん」
「透明、の、まま」
手の平ですくって、蒼の頬に軽くかけた。
彼は微笑みながら、片目を閉じて、顔をそむける。
「ウソついても、理和が欲しかったんだ。プレゼントってことで、許して」
上目遣いで、口を尖らせて、怒ってる表情で彼を見る。
「蒼のばか」
私の顎を親指で上げ、蒼は瞳をふせて、顔を傾けた。
「ホント、自分でも、あきれる」
あまりにも正直な物言いに、私は瞳を閉じて、このくちづけで許すことにした。
「もう、絶対、手放さないから」
「うん、私だって」
ほっとしたように、背中の手がすこし緩んで、不意に、蒼の右手が左胸に置かれた。
体をきゅっと縮めて、彼にしがみつく。
「好き、理和」
首筋に吐息を混ぜたささやきは、体も跳ねるくらいの鼓動を呼んだ。
「んっ」
思わず、喉を鳴らすと、背中に残っていた手に力が入り、また、蒼の体と隙間なく密着させられる。
「とくとくって、はずんでる」
「あ、蒼、も、いいでしょ、離して」
「ヤダね」
胸に置かれてる手に力が入って押さえるように動くとそこから、カラダに熱が広がり始めた。
とくとく、と早くなる鼓動に合わせて、息もあがり、蒼の手からの熱で、カラダも熱くなってくる。
蒼のその手に触れて、顎を彼の肩から外す。
「蒼、も、苦し……」
背中の手が緩み、蒼の体との間に、隙間ができた。
「こっち向いて、理和」
ずっと、低くて、怒っている強い声ばかりだったのに、急に、キーが変わって、ゆっくりと甘えるような声。
『ピアノ弾く、理和、好き』と、同じ懐かしい声音。
蒼の瞳を見つめるように、顔を上げると、背中の手が頭の後ろを支えるように、登ってきた。
蒼の瞳は潤んで充血していた。
私の視線に気がつき、瞬きをして、気まずそうに瞳を細めた。
そのまま、瞳をふせた蒼の顔が近づいてきて、自然に私も瞳を閉じて、胸の彼の手をきゅっと握る。
「好きだ。やっと、俺の、だ」
唇をかすめながらのつぶやきに、とくっと、心臓が一回大きく跳ねて、体もぴくっと跳ねた。
それをなだめるように、蒼の手が胸を撫でると喉の奥からの息が声にならないで、口に上がってくる。
重ねた唇の隙間から漏れて聞えてくるのは、自分から出てるのが信じられない甘い吐息。
止めたくて、口を閉じたいのに、蒼の唇が許してくれない。
だんだん、その意志をも、奪っていく長いくちづけと、胸の愛撫。
蒼の手に重ねていた手もはじめは震えて力が入っていたのに、汗ばんで、添えるだけがやっとになってきた。
蒼がくちづけの途中、少し、唇を離して、
「父さんと母さんに言う、いい?」
「ん、お願い、します」
また、蒼の唇の先が触れた瞬間、ぱっと、頭に浮かんだのは、
「あ!」
蒼は、ビクッと一瞬、私から体を離して、すぐにウエストに腕を巻きつけた。
「なっ、なんだよ! もう、ナシ言うなよ!」
「それ、ない! 違う! 服っ、乾燥しっぱだぁ」
彼から、顔をそらして、バスの方を見る。
「え、出してないのかよ、ずっといたくせに」
「だって、すぐ着て、帰るつもりだったもん。うわぁ、しわくちゃだ、きっと」
瞳を薄くして私を見つめてる蒼は、はーっと、ため息をつきながら、髪をかき上げる。
「洗えるもんなら、洗ってやり直せば?」
蒼は、顔をふせて、ドアに手をついて立ち上がった。
「洗えるけど……」
「俺、そのほうがいい。その間、理和とふたりでいられるから」
ちらと、蒼を横目で見上げると、彼も、斜め下の視線で私を見下ろす。
「バスに行こ? 一緒に」
「いっ一緒って」
「俺もシャワー浴びたいから、だ」
「んっ、うんっ」
立ち上がって、蒼を追い越して、バスに入る。
「蒼! ちょっと、待って。先に洗濯機、セットするから」
洗剤と柔軟剤を入れて、洗濯機のパネルを操作する。
ピピッと音がして、洗濯機に水が入りだした。
「ごめん、あ」
振り返ろうとしたら、後ろから、蒼がウエストに片腕を回して、もう片方の手で、背中からTシャツをめくり上げた。とっさに胸を押さえて、これ以上、上げられないようにする。
「や、蒼っ」
シャツから手を離すと、今度はハーフパンツを引っ張る。
「これもついでに、洗えばいいから」
「下着だけになっちゃうじゃないっ。やっ」
ブラのホックが外されて、胸が自由になったとたん、シャツが頭から抜けた。
袖が通ったまま、胸を押さえてても、蒼の手が後ろから、滑り込んでくる。
「コレ涙ついてるから、理和の。もう、見たくない」
蒼のも、ね。
「ん、う」
耳にくちづけながらの言葉に、力が抜けて、彼の胸に背を預けた。
「全部、洗ってしまえばいい。理和も、俺も、な」
Tシャツとブラを引っ張るように、剥ぎ取られた。
胸を隠して、屈もうとする前に、彼が私を抱えて、まだ、お湯が張られていないバスタブに下ろす。
そして、お湯を出し始めた。
「え?」
お湯の出てくる方を見てると、蒼がすばやく、私のハーフパンツと下着を一気に脱がした。
「や」
慌てて、膝を立てて、バスタブにしがみつく。
蒼がバスから、出ていった気配の後、洗濯機の蓋を開ける音と閉める音がして、衣擦れの音。そして、こちらへくる足音で、思わず、顔をふせ、バスタブを握ってる手に力が入った。
まだ、そんなに、バスの中はあったまった感じはしないのに、カラダが熱い。
熱い耳に伝わる音はバスの扉が閉まる音とバスタブに足を入れる音、お湯の出る音、私の早い心音。
「理和、こっち向いて」
「やだ、無理。恥ずかしいもん」
背中に、お湯がかけられる。
「いー眺め。理和の背中キレイだなー、ウエスト、細いなー」
体がぶるぶる震えてくる。恥ずかしいのと、からかわれている怒りで。
それでも、我慢してると、背中に蒼の指先の感覚。震えが止まり、体がぴくんと痙攣した。
「りーわ」
指先は背中をなぞりながら、トントンと軽く突く。
そのたび、ぴくっぴくっと、体が縮んで、心臓の鼓動が大きく跳ねて、苦しくて息も荒くなってくる。
「あ、おっ、も、やめて。や」
背中から、指が離れて、彼の手が私のウエストを掴んだ。
ちょうど、お湯が上がってきた辺り。蒼の手の大きさを直に感じて、お腹に力が入り、すっと、背筋が伸びた。
「こっち向いて、理和」
「やだ」
「早くしないと、洗濯終わっちゃうじゃん」
ナニを〝しないと″だ。
「イヤ、シャワー浴びて、出ればいいじゃん」
「シタい」
直球すぎて、言葉が出てこない。
お湯が上がってくるのを追うように、蒼の手も上がってくる。
体が緊張して、力が入る。
「俺、今日、バースディだよ。理和が欲しい、くれ」
なんて言い方、言葉遣いが荒い。
だって、こんなに話したのも、どれだけ、ぶりなの。
蒼ってこういう男の人なの?
声音も、もう少し、柔らかく聴こえていたのに、今の蒼は強い、揺るぎなさそうな声。
「あんな下着姿見せるからさ、我慢出来なくなったんだぜ?」
「うーっ……、あれは、だって」
ぼとぼと、と、お湯の音とは別の液体が入る音。すると、お湯の色がブルーに変わり始めた。
バスの中にミントの香りが漂って、熱いカラダが、すこし落ち着いてくる。
「もう少しすると、濁ってくるから、見えない」
バスタブのお湯が波打って、ウエストに腕が巻きついて、背中に蒼の胸が当たる感触。
「俺のに、したい。今度こそ」
ふぅと、息を吐くと蒼の指が伸びてきて、バスタブを掴んでる私の指を一本一本外す。
「こっち向いて、理和」
バスタブから外された手で胸を隠して、湯煙の中、すこしふせた瞳を光らせて微笑む蒼に男の人を意識して、見ていられなくなって、そのまま、肩に顎を乗せる。
「蒼の、ばか」
ふっと、蒼の笑う息が首筋に当たった。
「なんつーこと言うんだ……」
いつのまにか、お湯は止まって、バスタブの中で水をはじく音と私と蒼の喉からとも鼻からとも言えない声と息が、響く。
お湯から出る肌は、ひんやりとする。
清涼剤が入ってる入浴剤なんだ、ミントの香りとブルーの色は気分を涼し気にさせて夏に合ってる。
「ん、嘘つき」
肌にまとわりつく、お湯の色は透き通ったスカイブルー。
最初の色のまま、混濁なんてしない。
「ごめん」
「透明、の、まま」
手の平ですくって、蒼の頬に軽くかけた。
彼は微笑みながら、片目を閉じて、顔をそむける。
「ウソついても、理和が欲しかったんだ。プレゼントってことで、許して」
上目遣いで、口を尖らせて、怒ってる表情で彼を見る。
「蒼のばか」
私の顎を親指で上げ、蒼は瞳をふせて、顔を傾けた。
「ホント、自分でも、あきれる」
あまりにも正直な物言いに、私は瞳を閉じて、このくちづけで許すことにした。