神鳴様が見ているよ
9章 蒼という男性とは?
蒼を見送って、リビングに置いてあった食器を持って、キッチンに入ると父と母がお茶を飲んでいた。
「蒼、帰ったの?」
「うん」
 食器を洗い始めると父と母が話しを始めた。
「今、話しをしてたとこなのよ、大丈夫かなって」
「へ? 何が」
「理和と蒼」
 食器を棚に戻しながら、驚いて、母を見る。
「え、なんで」
「理和は、基本、甘えたなのに、蒼の前だと、落ち着いて、お姉さんって感じで。蒼は、荒いクセに、理和の前だと、甘くて年下みたいにふるまって、お互い無意識に、ね」
「そう、だったかも」
 記憶を手繰ってみると、なるほど、思い当たることばかり。
無意識に、姉弟らしく振舞っていたんだともいえる。
「お母さん、蒼が荒いって、そうなの?」
「アレはね、ホント、選ぶのよ。自分の手の内、大丈夫と認めたひとだと、荒いったら」
「暴力とかの乱暴ではないけど、言葉遣いと態度が荒いというか、たまにキツイんだよ。悪気はないんだけど」
 あれ? 蒼ってこんなんだった? ってことは、たしかに、今まで何回かあった。
「う、ん、なんとなく、そうね……」
「理和と違った甘えたなのよ」
「甘えた、蒼が」
 気を許して、どんな態度でも、受け止めてくれる相手には、遠慮がないということ。絶対の安心があれば、甘えて、できること。
「私たちがお互い、甘やかしたせいだねって」
「僕は、男の立場で、小さい蒼を見て、抹香さんの旦那さんの無念を思ったよ。抹香さん似の男の子が、大きくなって、いつか自分を追い越してなんてのを見ることが出来なかったことを」
「私は女だから、理和が、女の子らしくなって、服や髪の相談や、買い物したり、花嫁姿を見ることが出来なかった、奥様のことを想うわ」
「だから、自然に、僕は蒼を、抹香さんは理和をかまうようになっちゃった」
「お互いの亡くした相手を想ってね。で、一対一だから、まぁ、どうしても甘くなるわね」
「おばあさんはふたりにベタ甘だったし」
「そのせいか、あなた達もあんまり、駄々やわがままがなかったのよね。反抗期も」
 そういわれると、そうだ。あんまり、家でイライラしたことがないし、蒼も私も反抗期ってのが、あったのか、なかったのか思い出せない。
「それに、あなた達、あまりケンカしたことないでしょう。なんだかんだで、お互い、嫌われたくないから、遠慮して、ね」
「そうね、たしかに」
「だから、とりあえず、すぐケンカするわよ。お互い、こんなんじゃない、違うって」
 なんとなく、予兆があったことを思い出し、母から視線をそらした。
「き、気をつけるわ」

 母の入れたお茶をいただいて、ほっとひと息つく。
「ごめんね、理和。蒼に話して」
 はっと、思わず父を見た。 
「知ってるよ。今日、ふたりが一緒にいるってことは、蒼と解決したって、ことだよね」
「お母さんから?」
 母は、ちらっと父を見た。父は、ゆっくりとうなずいて、
「保険証使ったろ。年一で使用明細来るんだよ、そのときね」
 お父さんも知っていたんだ、それも、ずっと前から。
「どうして、蒼に話したの」
 ふうっとため息をついて、母は両肘をテーブルに置き、指を絡ませて組み、そこに顎を乗せる。
「恋人出来たでしょ、蒼。理和は、そうないけど、アレは、とっかえひっかえって感じで続かない。誕生日頃には絶対、ひとりになるし」
「抹香さんに似て、蒼は、クールでスマートなイケメンだもん。自分からじゃなくて、女性から寄って来るんだよね」
「ただ、もうそろそろ蒼も理和を吹っ切って、結婚するかもって思ったから。あのことがあってから、理和も蒼もまともに話さない、そんな、家族って変だもの。理由を知らない余所のひとが、家に来るようになったら、どう思うか、そして説明できるのかって」 
「お互い話し合って、わだかまりをなくして、家族に戻って欲しかったから、蒼に話したんだよ。ただ、直接的な話しは、理和から聞きなさいって」
 父と母を交互に見ながら、えっ? っと、父を見止める。
「お父さんから、言ったの、蒼に」
 母が父をちらっと見ると、父も母を見つめた。
「私だと、平静で伝えられるか、わからなかったからね」
 父は、私に視線を移して、うなずく。
「僕は、男として、やっぱり話してほしいと思う。好きなひと、とのことだから、責任を感じないと。これは、ふたりの親としても、そう思うよ」
 何も言えなくて、カップを握りしめ、うつむいて、うなずく。
 私たちが、今日、どうにか、過去から踏み出せたのは、両親のおかげだった。
「まぁ、あなた達がお互い、しつこく想い合っててよかったわー。理和を余所んちに取られなくて済んだ。蒼、よくやったって、ね」
「うん、これで、蒼と今まで通りずっと、一緒にいられるんだ。理和が、パートナーなら誘うの遠慮しなくていいし」
 私と蒼が結婚するのは、両親にとって、とても喜ばしいことであるらしい、よかった。
 でも、なんだろう、ふたりが望んでたことでも、あるみたいだな。

 両親が同じタイミングで、お茶をすすり、カップを置く。
「理和、ホント、蒼とたくさん話しなさいよ。理和なんて、蒼のこと、どれだけわかってるんだか」
「それは、蒼もデショ」
 母は、ちっちっと言いながら、人差し指を振って、
「イヤ、アレはなんだかんだ、お父さんや私から誘導的に理和の事、聞きだしてたから」
 はっと、思い出したように、父は、母を見る。
「そうだよ! 僕、蒼の振りで何気に理和のプライベートや仕事のこと話してた!」
「ウチに来ても、ほとんど話さないっていう、気のないふりして。バレバレだっての、片思い。いい歳して、まー、いつまでも」
 キッツいなー、お母さん。蒼が荒いのは、まちがいなく血筋だわ。
 父に至っては、唇を、大人げなく尖らせて、
「理和は、僕らに、そういうアクションなかったよね。蒼は、あんなに理和を気にしてたのにさ」
 と私を責める。この態度は、私がよくやる。ホント、血は争えない。
 父と母の吐き捨てるような言葉に、テーブルに肘をついて、頭を抱える。
「私、蒼のことなんて、仕事と、女のひととのおつき合いのことしか知らない……」
 蒼と一緒に飲んで帰ってきた父からの情報のみ。
「ほらー、英司さん、理和、蒼の事、こんなことしか知らないわよ。あなたが酔っぱらって、話したことぐらいしかー」
「イヤ、抹香さんだって、蒼の事、そのくらいしか、話してなかったよー」
「アレのことなんて、それくらいしか興味ないもん、あとは面白くないし」
 イヤイヤ、それ、実の母親の言葉?
「男同志だもん、それくらいしか、聞くことないよ。お酒飲んで、あとは、どうでもいいことばかりだもん」
 そりゃ、そうだろうな。父に蒼の事で、聞いといて欲しいことなんて頼んだことなかったから。
 メールアドレスや電話番号は知ってるから、聞くことあれば、このツールを使えばいいと思ってから。使うこと、ほぼ、なかったけれど。
 小さい頃から、可愛くて、優しいイメージしかない。
 でも、確かに、あのときから、すこし変わってきたような気がする。
荒い、キツイのが、出てきてた。
 ヤバい、マズい、不安。
蒼って、本当は、どういうひと? こんなの普通の恋愛じゃ、ありえない。
 最新は、気を許したひとには、悪気はなく、荒い、キツいこと。 
 強引で……結構、手、早いこと。
ナニ、それ! そういえば、慣れていた感じがする。脱がすとことか、キスだって。
だよね、いろんな女のひとと、あーゆーことしてるんだ。
「蒼って、どれくらいの女のひとと、つき合ってきたんだろう……」
「え? 理和、それにスイッチ入れると、蒼とマトモな話なんて、当分、できないわよ」
「まっ抹香さん、余計なことを!」
「お父さん、それ、むしろ不安にさせるよ……」
 どんだけのひとと、つき合ってたんだか、蒼は。
「まぁ、理和の穴埋め的につき合ってたんでしょうね」
 顔を上げて、母を見ると、私を覗き込むようにして、ニコっと微笑んだ。
「いつも、別れて。誰も、理和に、かなわなかったんだよ、蒼にとって」
 よほど、情けない顔をしていたみたい。
父が、困ったように首をかしげて、小さい子をなだめるように、頭を撫でる。
「ん、わかった」
 ふたりにとって、私は、どんなに大きくなっても、小さい子供のままなんだな。
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