神鳴様が見ているよ
11章 神鳴様に見せつけてやる?
スキンケアと簡単な化粧品と着替えを買い、デパ地下やスーパーで食料を調達して、蒼のマンションへ。
蒼が着替えている間に、惣菜を温め、並べて、フルーツを切ってると、
「荷物、必要なとこに置いておいで」
「え、別に、その都度、出し入れするし」
蒼は、むっと口元を引き締めて、眉間を人差し指で押さえながら、コンっと、カウンターをノックした。
「あのな、ここに、住めるくらいに、物を置いて欲しいんデスって、言いましたヨネ?」
なにかを、抑えるような絞り出す声の蒼を見てられなくて、うつむいて、顔を覆う。そんな丁寧に言われるとバカにされてる気がする、イヤ、してるよね。
……きっと、カウンター、拳で叩きたいの抑えてたんだ、よね。
「……言われマシタ」
ホント、察しが悪いな、というより、もう頭悪いんじゃないかっていうレベルだ。情けない。
蒼もカウンターに両手を置き、うなだれる。
んーっと、声ではない音を喉から出して。
「俺、色々、わかってきたぁ。そうか、理和は、ちゃんと言わなきゃわからんのかぁ。昔っから、そうだったんだな、だからかー」
「あ、蒼? え、えっと、ごめんね?」
うなだれたまま、彼は、首を振る。
「イヤ、も、いい。甘えた、って、そういうこともだったかー、気をつけよ」
そうなの。家では、お母さんに甘やかされて、自分で先々考えることもなく、気がつくと与えられてたから、察することがなかったの。
家の中、家族の間では『言われなきゃ、わかんない』そういう甘えたなの。
仕事や外では、経験を積むから、さすがに、そういうことはないけれど。
蒼とお互いの仕事の話しをしながら、ごはんを食べて、後片付けをしながら、これからの話しをする。
「部屋、探そう。もう一部屋あると、いいよな」
「ん、蒼、仕事を家でやるなら、側にいない方がいいでしょ」
「ピアノも置けるしな。アップライト、でも防音がな、電子でもいいだろ」
「うん、こだわらない。どうしてもなら、ウチに帰ればいいだけだし」
「んー、母さんと一緒になると、なかなか戻ってこなさそうだな。ヤダな」
「も、それは、どうなるか、わかんないよ」
蒼は、かくんっと、首を折り、はっと短いため息。
「そこは否定するとこだろが、も」
お茶を飲みながら、テレビを見つつ、話しをして、長いCMの間に蒼がリビングを出て行った。
欠伸をして、伸びをしてると、
「ん、眠い? バス行くか」
「うん……」
腕を引っ張られて、立ち上がる。
「ほら、着替え。一緒に入ろーな」
差し出されたTシャツとパンツは、この間と同じもの。奪うように受け取り、胸に抱く。
「ヤダ、蒼、絶対、手ぇ出すもん。ひとりで、ゆっくり入りたい!」
一瞬、私から瞳を外した蒼は、すぐに視線を戻して、うなずきながら、
「えー、ゆっくり、スルしー……、ナニ、その目つき」
上目遣いで、蒼を睨む。
「や、蒼の目つき、ヤラシイ」
くっと、顎を上げて、口元をニヤッと曲げて、私を斜めに見下ろす。
「そういうふうに見えちゃう、理和だって、やーらしぃー」
かぁっと顔が熱くなって、なぜか、瞳が潤んできた。肩を怒らせて、お腹から声を出す。
「蒼のバカぁっ」
「なにぃ」
キっと、蒼の瞳に力が入ったように見えたけど、すぐに眉をひそませて、途方にくれたような表情をした。私が、もう半泣きの顔をしてるから。
「からかわないで、よ。蒼は、慣れてるかも、しれないけど、私、そんな、無いんだから」
「は、え?」
蒼の気の抜けたような声が、バカにされてるように聞こえる。
握りしめた着替えで、顔を覆って、涙がこぼれそうな瞳を押さえるようにする。
「蒼だけ、と、だもん、そういうことしたの。だから……」
この前は、勢いみたいなとこあったし、場所も狭いし、短い間だったから、どうにかだもの。
不安だよ、ちょっと怖いよ、そう思ってるの。
からかわれると、余裕ないから、悲しくなるよ、逃げ出したくなるよ。
体が震えてきて、もう、顔を上げられなくなる。
「キスも?」
ビクッと、肩が縮み、首を揺らすように、小さくうなずく。
んっと蒼が喉を鳴らす音が聞える。
しばしの沈黙が気になって、服から、瞳だけをのぞかせる。
それを待っていたかのように、背中にそっと腕が回り、蒼に引き寄せられた。
「理和は、甘えたで言わなきゃわかんないから、強引なこと言ってみたんだけど。ごめん、むしろ怖い方へ追い込んじまったな。こういうのが、俺の勝手だな」
「……っ」
「泣くなよ、大事にしたくて、も、本当に手ぇ出しにくくなっちまう。ソレ、ヤだし」
すんっと鼻を鳴らして、涙を堪える。
「んっ」
とんっと一回、軽く背中を叩かれて、蒼から、体を離す。
「バス、行ってもいい? ひとりで」
蒼は嬉しいのと困っているのと混ざってる半笑いの表情で、うなずく。
「そんな顔して、も、理和はズルい。言うこと聞くしかないじゃん、行っといで」
「うんっ」
私の反応に、蒼は瞳に力を宿らせて、じっと見つめ、指でピストルの形をとり、こちらに向けた。
「今だけだぞ」
「う」
曖昧な返事をして逃げるように、バスに向かった。
バスのお湯には、すでに、この前の入浴剤が入ってた。
浸かってると、ここでのことを思い出して、むずむずした変な気分になる。
ゆっくりなんて、いられなくて、早々に出てしまった。
蒼は、リビングで、タブレット端末を操作してた。
私の気配を感じて、顔を向ける。
「あれ、早いじゃん」
「……お先です」
端末を持って立ち上がり、手招きをする。端末を差し出して、
「これ、寝室に置いておいて。で、そのまま、ベッドにいること」
「う、うん」
怖気づいて逃げないように、わかりやすい指示だなー、蒼は、私をかなり、わかってきてるんだなー。
モニタのある机に端末を置く。
物は散らかっていないキレイな部屋。
本棚は、プログラム系、言語系、端末の取説、英会話なんかもあり、仕事関係らしい本が多い。
ベッドに腰かけて、窓の外を見る。
いつもより、外が黒い気がするから、曇っているかもしれない。
そのまま、横になって、窓を見る。
何も変化しない風景だから、だんだん瞳が閉じてくる。
「コラ、寝るとかねーぞ!」
「お? わっ」
バチッと瞳が開いて、慌てて起き上がる。そして、蒼が力を入れて座って、ベッドが揺れた。
「きっと、そうなるから、ひとりにしたくなかったんだ。だから、一緒に、ってことになるんだからな」
「う」
「もう、覚悟しろよ」
「う、ハイ」
ふと、窓の方を見ると、閉じられていないカーテンの向こう、闇の中、キラッと光った気がして、耳を澄ますと、遠くから、ゴゴゴと軽い雷鳴が聞える。
こっち向いて、と耳元でささやかれて、蒼の方に向くと、すくい上げるように唇をふさがれた。
びっくりして、思わず、体を引くと唇はあっさり離れた。
すると、彼はTシャツの下に手を滑り込ませて、背中に腕を回す。
「え、んっ」
きゅっと背骨に力が入る。
そして、すぐに重ねられた唇から、押されるように、ゆっくりベッドに横たわる。
「そ、だ。キス鍛えないと、だった」
「え? ん……」
それは、唇に隙間を与えないように、覆いかぶせるようなくちづけ。
何度も、食むように押し付けられる。
鍛えるって。
受けるのが、精一杯のこんなキスに慣れて、自分から蒼にできるようになるなんて、全然、ムリだよ。
蒼が着替えている間に、惣菜を温め、並べて、フルーツを切ってると、
「荷物、必要なとこに置いておいで」
「え、別に、その都度、出し入れするし」
蒼は、むっと口元を引き締めて、眉間を人差し指で押さえながら、コンっと、カウンターをノックした。
「あのな、ここに、住めるくらいに、物を置いて欲しいんデスって、言いましたヨネ?」
なにかを、抑えるような絞り出す声の蒼を見てられなくて、うつむいて、顔を覆う。そんな丁寧に言われるとバカにされてる気がする、イヤ、してるよね。
……きっと、カウンター、拳で叩きたいの抑えてたんだ、よね。
「……言われマシタ」
ホント、察しが悪いな、というより、もう頭悪いんじゃないかっていうレベルだ。情けない。
蒼もカウンターに両手を置き、うなだれる。
んーっと、声ではない音を喉から出して。
「俺、色々、わかってきたぁ。そうか、理和は、ちゃんと言わなきゃわからんのかぁ。昔っから、そうだったんだな、だからかー」
「あ、蒼? え、えっと、ごめんね?」
うなだれたまま、彼は、首を振る。
「イヤ、も、いい。甘えた、って、そういうこともだったかー、気をつけよ」
そうなの。家では、お母さんに甘やかされて、自分で先々考えることもなく、気がつくと与えられてたから、察することがなかったの。
家の中、家族の間では『言われなきゃ、わかんない』そういう甘えたなの。
仕事や外では、経験を積むから、さすがに、そういうことはないけれど。
蒼とお互いの仕事の話しをしながら、ごはんを食べて、後片付けをしながら、これからの話しをする。
「部屋、探そう。もう一部屋あると、いいよな」
「ん、蒼、仕事を家でやるなら、側にいない方がいいでしょ」
「ピアノも置けるしな。アップライト、でも防音がな、電子でもいいだろ」
「うん、こだわらない。どうしてもなら、ウチに帰ればいいだけだし」
「んー、母さんと一緒になると、なかなか戻ってこなさそうだな。ヤダな」
「も、それは、どうなるか、わかんないよ」
蒼は、かくんっと、首を折り、はっと短いため息。
「そこは否定するとこだろが、も」
お茶を飲みながら、テレビを見つつ、話しをして、長いCMの間に蒼がリビングを出て行った。
欠伸をして、伸びをしてると、
「ん、眠い? バス行くか」
「うん……」
腕を引っ張られて、立ち上がる。
「ほら、着替え。一緒に入ろーな」
差し出されたTシャツとパンツは、この間と同じもの。奪うように受け取り、胸に抱く。
「ヤダ、蒼、絶対、手ぇ出すもん。ひとりで、ゆっくり入りたい!」
一瞬、私から瞳を外した蒼は、すぐに視線を戻して、うなずきながら、
「えー、ゆっくり、スルしー……、ナニ、その目つき」
上目遣いで、蒼を睨む。
「や、蒼の目つき、ヤラシイ」
くっと、顎を上げて、口元をニヤッと曲げて、私を斜めに見下ろす。
「そういうふうに見えちゃう、理和だって、やーらしぃー」
かぁっと顔が熱くなって、なぜか、瞳が潤んできた。肩を怒らせて、お腹から声を出す。
「蒼のバカぁっ」
「なにぃ」
キっと、蒼の瞳に力が入ったように見えたけど、すぐに眉をひそませて、途方にくれたような表情をした。私が、もう半泣きの顔をしてるから。
「からかわないで、よ。蒼は、慣れてるかも、しれないけど、私、そんな、無いんだから」
「は、え?」
蒼の気の抜けたような声が、バカにされてるように聞こえる。
握りしめた着替えで、顔を覆って、涙がこぼれそうな瞳を押さえるようにする。
「蒼だけ、と、だもん、そういうことしたの。だから……」
この前は、勢いみたいなとこあったし、場所も狭いし、短い間だったから、どうにかだもの。
不安だよ、ちょっと怖いよ、そう思ってるの。
からかわれると、余裕ないから、悲しくなるよ、逃げ出したくなるよ。
体が震えてきて、もう、顔を上げられなくなる。
「キスも?」
ビクッと、肩が縮み、首を揺らすように、小さくうなずく。
んっと蒼が喉を鳴らす音が聞える。
しばしの沈黙が気になって、服から、瞳だけをのぞかせる。
それを待っていたかのように、背中にそっと腕が回り、蒼に引き寄せられた。
「理和は、甘えたで言わなきゃわかんないから、強引なこと言ってみたんだけど。ごめん、むしろ怖い方へ追い込んじまったな。こういうのが、俺の勝手だな」
「……っ」
「泣くなよ、大事にしたくて、も、本当に手ぇ出しにくくなっちまう。ソレ、ヤだし」
すんっと鼻を鳴らして、涙を堪える。
「んっ」
とんっと一回、軽く背中を叩かれて、蒼から、体を離す。
「バス、行ってもいい? ひとりで」
蒼は嬉しいのと困っているのと混ざってる半笑いの表情で、うなずく。
「そんな顔して、も、理和はズルい。言うこと聞くしかないじゃん、行っといで」
「うんっ」
私の反応に、蒼は瞳に力を宿らせて、じっと見つめ、指でピストルの形をとり、こちらに向けた。
「今だけだぞ」
「う」
曖昧な返事をして逃げるように、バスに向かった。
バスのお湯には、すでに、この前の入浴剤が入ってた。
浸かってると、ここでのことを思い出して、むずむずした変な気分になる。
ゆっくりなんて、いられなくて、早々に出てしまった。
蒼は、リビングで、タブレット端末を操作してた。
私の気配を感じて、顔を向ける。
「あれ、早いじゃん」
「……お先です」
端末を持って立ち上がり、手招きをする。端末を差し出して、
「これ、寝室に置いておいて。で、そのまま、ベッドにいること」
「う、うん」
怖気づいて逃げないように、わかりやすい指示だなー、蒼は、私をかなり、わかってきてるんだなー。
モニタのある机に端末を置く。
物は散らかっていないキレイな部屋。
本棚は、プログラム系、言語系、端末の取説、英会話なんかもあり、仕事関係らしい本が多い。
ベッドに腰かけて、窓の外を見る。
いつもより、外が黒い気がするから、曇っているかもしれない。
そのまま、横になって、窓を見る。
何も変化しない風景だから、だんだん瞳が閉じてくる。
「コラ、寝るとかねーぞ!」
「お? わっ」
バチッと瞳が開いて、慌てて起き上がる。そして、蒼が力を入れて座って、ベッドが揺れた。
「きっと、そうなるから、ひとりにしたくなかったんだ。だから、一緒に、ってことになるんだからな」
「う」
「もう、覚悟しろよ」
「う、ハイ」
ふと、窓の方を見ると、閉じられていないカーテンの向こう、闇の中、キラッと光った気がして、耳を澄ますと、遠くから、ゴゴゴと軽い雷鳴が聞える。
こっち向いて、と耳元でささやかれて、蒼の方に向くと、すくい上げるように唇をふさがれた。
びっくりして、思わず、体を引くと唇はあっさり離れた。
すると、彼はTシャツの下に手を滑り込ませて、背中に腕を回す。
「え、んっ」
きゅっと背骨に力が入る。
そして、すぐに重ねられた唇から、押されるように、ゆっくりベッドに横たわる。
「そ、だ。キス鍛えないと、だった」
「え? ん……」
それは、唇に隙間を与えないように、覆いかぶせるようなくちづけ。
何度も、食むように押し付けられる。
鍛えるって。
受けるのが、精一杯のこんなキスに慣れて、自分から蒼にできるようになるなんて、全然、ムリだよ。