神鳴様が見ているよ
息も絶え絶えになって、ようやく解放された唇は、上手く動かない。
「か、カーテン、閉めて」
 窓の方に少し顔を向けたら、頬に手を当てられて、元に戻された。
見上げる蒼の表情は、からかうように、目尻を下げて、口元を片方だけ上げた。
「ヤだね」
「見て、るよ、神鳴様」
 蒼は、すっと瞳を細くして、首をかしげる。
「いいよ、見せつけてやる」
「や、そんなこと」
「いつも見られてたのは、一方通行だから、相思相愛なの見せたいんだ」
 頬に触れていた手が、滑るように髪をすく。
優しい感触は、一瞬、うっとりとした気分にさせた。
けれど、頭を振って、意識を戻す。
「っ、もーっ」
 彼の肩を押して、枕から頭を上げようとしたら、Tシャツを首までまくられて、上がった腕を頭の上でベッドに押し込むように、閉じ込められた。
「ナントでも。聞かないし、できるもんなら、やってみな」
 低く押さえた声で耳元で、そうささやいた唇が、すぐに鎖骨のくぼみを吸う。
「なっ……、んんっ」
 体を食むような、彼のくちづけは、ピリピリするから、ぴくんと、背筋が伸びるように、緊張して、そのたびに呼吸が止まる。
なだめるように背中をさすられて、唇が離れると、ゆっくり息をついて、体を緩めるの繰り返し。
「あ、蒼?」
「ん?」
 掴まれて固定されたままの手首を離して欲しくて、指を動かすと、彼の手にまた、力が入る。
「も、腕、離して。しんどい、の」
「んー、も、すこし、ガンバレ」
 頑張れ? そういうことじゃない! 私の体に視界には、まくり上げられたTシャツしか見えなくて、彼がどんな表情をしているのかわからない。
 けれど、今は、わかる! 私の体にくちづけてる唇が笑ってる。
ふっ、て鼻で笑う息も!
「う。も、や!」
 これ以上、好きにさせないつもりで、膝を立てようとウエストをひねると、蒼の手が押さえるように、足の内側を握る。
すると、そのまま、力を吸い取られたかのように、足が動かなくなる。
「もう、すこし、理和をタンノーしたい」
 タンノー……堪能って! その言葉を理解したら、恥ずかしくて、体に力が入った。
「ずっと、理和を我慢してたんだから」
 すうっと、カラダが冷えて、ベッドに沈み込んでいくように重く感じる。
蒼の体もぴくっと、なにかに気づいたように止まって、唇の感触が体から、無くなった。
「理和? え? そんな痛かったか、ゴメン!」
 蒼の焦って、困ってる声と同時に手首の圧が無くなって、腕が自由になった。
その腕で顔を覆う。
 蒼の我慢は、私の胸を突く、後悔と懺悔 
 気がつくと、ザーッと雨音が聞こえる。
暗い部屋を稲妻がほんのひととき照らし、鼓膜を差すような、雷鳴。
 神鳴様は、いつも、見ていたの。
 泣いちゃダメだ、謝っちゃダメだ、蒼をまた、キズつける。
わかっているけど、わかっているから、止めたくて、こぼれないように、瞳と口を腕で強く抑える。
 蒼を不安にさせるのは、もうイヤ。
 私だって、やっと、手に入れたんだもの。
「蒼の、ばか」
「なにぃ?」
 腕で顔をゴシゴシとこすって、首元まで上がってるTシャツを下げて、すぐ、上にいる唇を尖らせた蒼を睨む。
「ちっとも、優しくしてくんない」
 彼の首に腕を巻きつけて、ぐぃーっと、自分に寄せる。
「ちょっ……、理和、押しつぶしちまう、も、ちくしょっ」
 ベッドがきしんで、蒼は、私と並んで横になった。
すかさず、彼の首をホールドしたまま、上半身を乗せる。
「なんだよ、もー」
 蒼は瞳を手で覆い、私から顔をそらした。
「や、って、言ってるのに、なんで、聞いてくれないの? キスだって、ちくちくするし、手、キツくて強いよ、痛いの」
 彼の首から、腕を外して、胸に手を置き、肩に顔をふせる。
「他の女の子にも、こんなふうにしてた?」
 ビクッと、彼の肩が上がる。
「してない。理和には加減できないだけだ」
 言い放たれた言葉は、カツンと頭を叩くような衝撃。
無意識に手に力が入って、彼の肩から、顔を離す。
「私、に、キツイんだ。いつも怒ってるみたいなの、私、やっぱり、なんかダメなのかな」
 彼から、手も放して、うつむいて体を縮める。
はっと、息を飲むような音がしてベッドのきしむ音で体が揺さぶられる。
 顎に指がかかって、顔を上げさせられた。
私を覗きこむ蒼の表情は、怒っているように、瞳に力を入れている。
「違う! ずっと、ずっと、求めて、欲しくて、諦めてたんだ」
 そして、肩を押されて、仰向けになると、彼が覆いかぶさってきた。
「でも、やっと、手に入れた! 離したくなくて、もう、わけわかんないんだ」
 蒼が重いから、肩を押し上げるように、手を置くと、彼の手が背中に回って羽交い締めにされた。
「優しくって、どうしたらいいかわからない。無意識なんだ、ムリだ」
「んっ、痛いの、怖いの、や」
 肩をゆすって、蒼の腕から逃れようとするけど、ビクともしない。
「諦めて。痛がっても、怯えても、今度は、も、止められないからな」
「お風呂の時は、そんなじゃなかったのに……」
「あんときは時間、限られてたから、スゲ抑えてただけ。も、必死」
「は」
「次が、必ず、あるってわかってたから、そん時は、容赦しないって」
 おっかないワードがでて、手の平が汗ばんできた。
「よっ容赦って」
 蒼は腕を外して、そのまま、私の耳の横で肘をついた。
ふわっと、体が楽になって、私を見下ろす彼と正面で向き合う。
「それが、今」
 蒼の瞳の奥の光は、あのときの稲光の放つ閃光を宿した、誘う妖しい輝きは、まぶしくて、瞳を細くさせる。
 思い出す、ささやかな抵抗さえも奪ってしまう強い意思を含めた瞳。
 あのときと同じ。
「全然、理和が足りない。やめられない、絶対」
 彼は私に跨って、起き上がりシャツを脱いで、床に落とした。そして、すぐに、私の着ているシャツを胸までめくる。
「あ、蒼」
 胸に手を置いて、シャツを握る。
「腕、上げて。今度は、押さえつけないから」
 言われた通りにしようとするけど、緊張と恥ずかしいので、肩より上がらなくて、震える。
「ダメ、上がんな、わっんっ」
 背中を持ち上げられて、ブラのホックを外されて、引っ張るようにシャツを脱がされ、ハーフパンツも膝まで、もってかれる。
「今度は、理和が脱がして?」
 意地悪そうに瞳を半分にして、見下した表情で自分のジーンズのボタンを指さす。
「や、無理」
「理和だけ、剥かれてるんだぜ。俺、このままでも、イケるけど」
「んー」
 ジーンズのボタンに触れて、引っ張ろうとするけど、手が震えて力が入らなくて、指が離れる。
「で、きない、よ」
 喉からしぼりだすような震える声になる。
こういうの上手にできないと、ダメなのかな、イヤなのかな、あきれる? 怒る? 
 不安で潤んでくる瞳で、蒼を見つめると、嬉しそうに瞳を細めて、額と頬にちょん、ちょんとくちづけを落とした。
「よく、デキマシタ。むしろ、すんなり出来たら、戸惑ったな」
 からかわれたのが悔しくて、拳を突き出すけど、届かない。それを、蒼が握りしめる。
「う、蒼の、ばかぁ」
「ハイハイ、理和、も、可愛くて、さ」
 言いながら、すぐに蒼も着ている物を脱ぎ捨てて、これでシーツの中はふたりとも、裸。
 蒼はシーツを頭にかぶり、
「これで、神鳴様から、目隠し」
 首をかしげて、ニコッと微笑んだ彼は、子供の頃と同じ笑顔。
「も」 
 ふぅっと、あきれたようなため息をついて、蒼の首に、腕を回す。
「優しく、よ。ね?」
 すこし睨むように、上目遣いで見ると、瞬きを一回して、彼は、すぐに顔を傾けて、触れるだけのくちづけをした。
「ま、ゼンショする。これがダイダキョーだ」
 善処、程度。それも、大妥協ときた。
もう少し、嘘でもいいから、言い方変えられなかったのかな。
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