神鳴様が見ているよ
12章 神鳴様が見ている
 肩筋に、ピリッとした痛みで肩がぴくっと上がる。
「理和、痛くない?」
「あ、ん」
「まだ、イイ?」
「うん……」
「これくらいは?」
「ん」
 頭の中がとろけて、感覚も思考もおかしい。
 くちづけや指先の場所が変わるたびの蒼のささやく問いに、答えるのが億劫、適当な返事が出来ない。
 それでも、私が眉をしかめれば、額にくちづけをして、首筋をなでて、ため息交じりの声と表情が戻るまで、待ってくれる。
「あ、コラ、眠そうな瞳しやがって!」
 神鳴様と蒼の指先。なるほど、眠る条件が揃って、条件反射と言うべきか……。
「やっ、蒼ってばっ」
 胸に、歯を立てられて、ピンと体が伸びるように、跳ねた。
 両手で胸を守るように重ねるとその上から、蒼の手が押さえつけてきた。
「もう、優しくなんてしない」
 息を吐きながらの耳元のつぶやきは、すこし、カラダを緊張させる。
「眠らせない」
 背中に腕が回り、持ち上げられて、息が止まる。
 蒼の肩に触れるように、そっと手を置いて、彼を見つめる。
 稲光が、また、蒼の瞳を熱を持たせるように、ギラリと光らせた。
「好きよ、蒼」
 すっと、熱が冷めるように、蒼の瞳が柔らかく緩んで、ニコッと笑う。昔から、見てる笑顔で。 
「うん、俺も」
 ゆっくりと何度も唇を重ねながら、体中をマッサージするような指先の動きが、体を震わせる。
 ううん、カラダがわなないている。
 首を振って、蒼の唇から、逃げ出す。
 ダッシュしたみたいに、息が浅く短くしかできない。
 苦しくて、瞳が潤んできた。
「あ、蒼、も、や」
 彼は、目尻を下げ、口端をきゅっと上げて、私をからかうような表情で覗き込んできた。
「や? ナニが」
 わかってるくせに、そう誘って、煽ってるくせに、焦らしてるくせに!
「も、ダメ。眠っちゃう、ん」
 瞳をふせて、口元に笑みを浮かべながら、私の額の生え際に、くちづけをした。
「ん、理和、なんて瞳で見るんだよ。もう、そんな理和、もらわないと、おかしくなりそ」
 自分がどんな瞳で蒼を見てるのかなんて、わかんない。
 私を見つめる蒼の瞳は、優しくて、甘そうな光を湛えてて、ずっと、見ていたくなる。
 その瞳を見ていると、私も、そうだよ、もうおかしくなるそうなの、蒼を求めて。
「神鳴様にちゃんと見せないと、な」 
「っ……蒼のばか」
「なんつーこと言うんだ……」

 ウエストから撫でるように、腰に蒼の手の平の感触。
 瞳を閉じた。
 背骨がきしむくらい背中をそらして、蒼を迎えるのは〝痛い″けれど、仕方のない痛み。
 彼の肩に、私の爪が刺さって、〝痛っ″て言うことで、お互いね。

 蒼が目隠ししてたシーツはもう、半分めくれて、意味がなくなってしまってる。
 神鳴様は、いつも見てるの。 
 稲妻は窓を突き抜けて、私たちを照らす。
 雷鳴は、空気を震わせて、私たちを痺れさす。
 カラダが熱い。何度も、カラダに熱が籠る。
 アタマの中も熱くて、何も考えられない。
 窓の外では、神鳴様が音楽を奏でてるはずなのに、雷鳴も雨音も、私たちの声も息遣いさえも耳をすり抜けて音がない空間の中にいる。
 ここは今、静か。
「好きだよ」
 あなたの『好き』という声だけが、耳に届くの。

 蒼の肩越しの窓から見えるのは、真っ暗な闇だけ。
 いつのまにか、雷鳴も雨音もしなくなっていた。
「蒼……、も、神鳴様、いない、ね」
「ん、行っちゃったな」
 彼の胸に額を押しつけて、
「眠い……」
 ふっと、笑うような息が、髪の中を通り、ぎゅっと抱きしめられる。
「まだ、ダメ」
「も、やぁ」 
 抵抗の意味で蒼の二の腕を指でピタピタ叩いていると肩を押され、仰向けにされて、膝を抱えられた。
「その程度、イヤなんて、思えないし。そもそも、まだ余力があるとみた」
 もう、この程度の力しか残っていないとどうして思えないの! 
「蒼ぉ、も、ムリ」
 チュッと音がするキスを胸元にして、唇をつけたまま、
「好きだよ」
 とくっと鳴る心音は、一気にカラダを緊張させ、熱をもたせた。
「ほら、イケる、だろ」
 薄暗い部屋の中で蒼の瞳がキラっと光って、鼓動が早くなる。
 手が震えてきたのを抑えるように拳にして、蒼の肩を叩く。
「あ、蒼のっ、ばかぁっ」
「ハイハイ。眠気も冷めた、な」
 私の腕を引っ張って、自分の首に絡めるように巻き、背中を持ち上げる。
「蒼ぉ、も、や……ぁ」
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