神鳴様が見ているよ
13章 ずっと、好きって
カーテンの閉まっていない窓からの陽の光が瞼を透けて届き、瞳を開ける。
「うんっ」
窓を見ようと、体の向きを変える。
青空は本日、晴天の合図。
ちぎれたような長細い雲が、ほんの少し漂ってる。
ベッドの下に落ちてる、Tシャツとハーフパンツを手を伸ばして拾う。
ちらっと、背中越しに蒼を見ると、規則正しい寝息で、すこし幼くなったような寝顔。
大人の蒼の寝顔は初めて見る。
また、体の向きを変えて、蒼と向き合う。
(かわいい、なんて言ったら、怒りそう)
笑いが漏れないように、口元に力を入れて、髪をすいたり、頬を撫でたりした。
触れて、蒼を感じる時、愛しくて大事で、離したくないって想う。
(蒼も、神鳴様が来て、私が寝てた時、こんな気持ちだったのかな)
それでも、蒼はぴくりとも動かず、全く起きそうにない感じ。
(シャワー浴びてこよ、かな)
ウエストに置かれてる腕を、そうっと、持ち上げて、体を抜く。
もう一度、蒼を見るけど、気がつかないまま、眠り続けてる。
足音をたてないように、ドアの音をたてないように、バスに行く。
シャワーを浴びて、体を拭きながら、鏡に映る自分を見て、ん? と、鏡に近づく。
「う、わ」
思わず、鏡から顔をそむけて、胸から下を見て、がっくりと洗面台に手をつくと、二の腕の内側にも。
それも、両方。
(ちょっと、待って、え? いつのまに)
屈みこみたくなるのを、踏ん張って、下着をつけ、Tシャツとハーフパンツを着る。
着ながら、体の細かいところを見るたびに、蒼のくちづけの痕がある。
Tシャツの背中をめくって、鏡に映す。
(はぁ? どうして、こんなとこまで)
いよいよ、屈みこんで、頭を抱える。
(た、タチが悪い……計算ずく。着てきた服で、ギリ隠れるところまでだもん。怒っても、そう言い返されるに決まってる)
「りっ……? り、わ!」
「ん?」
「理和? 理和! どこだ!」
ドアの向こうからの悲鳴のような怒鳴り声に、慌てて、バスから出る。
「え、どうしたの」
ベッドの上の蒼は、顔をゆがめて、泣きそうな表情をしてた。
「いた……、理和。よかった」
彼は、うつむいて、はぁーっと長いため息。
私は、ベッドに腰かけて、彼の頭を撫でた。
「いるデショ。そりゃ」
「一瞬、夢かと思った」
「は」
蒼はパッと、顔を上げ、瞳を細めて、私を軽く睨んだ。
「理和が悪い。俺が起きるまで、側にいないから」
そして、手を伸ばして、私の着てるTシャツの首元を引っ張る。
それを戻そうと胸元でシャツを押さえた。すると、蒼の指先が鎖骨をなぞる。
「この痕、俺がつけたの、かなぁ」
「あっ、あたり前じゃない! シャツが伸びるよ、や!」
「俺んのだ、いいじゃん」
シャツを引っ張り続け、襟からついに肩まで出して、指で、つんつんと痕を突く。
「覚えてないなー、ここも」
「ウソよ! あちこち、あるんだから!」
「見せて」
「や」
「俺、覚えてない」
そんなことあるわけない! ほんのちょっと、前の事なのに!
「理和がいなかったショックで、忘れたんだ」
「ばっ、ばかっ」
「ホントだって」
後ろの髪を上げて、うなじを指先で、とん、と突いて、見ーっけ、とささやく。
「私の方が、知らないもん! いつのまに、そんな……」
彼の指が離れるように、首を振る。
「ちゃんと、聞いたじゃないか、イイ? って」
「覚えてるじゃない!」
「理和も返事した、ちゃんと」
「だって、も、わかんないくらい、だもの」
すると、うなじの指で突かれた所に唇の感触。
「もう、ダメ! や!」
「ナニ、怒ってんだよ」
「だって! こんなんじゃ、も、プールも海も行けない。約束してたのにー」
当分、水着なんて着れないよ。服だって、困るくらいなのに。シャツをぐいぐい引っ張られ、力でかなうわけなくて、ついに蒼の腕の中。そしたら、やっと、彼はTシャツから、手を離した。
「そりゃ、よかった。行かんで、ヨロシ、俺も行けないし」
「え?」
「肩、痛い。理和も俺に痕、残しただろ」
肩越し、ちらっと見ると、肩と腕の付け根の辺りに刻む、赤い爪痕。傷にはなってないけど、内出血がしばらく残るだろうか。
「お互い、だろが」
首筋に頬をよせて、擦りつける。くすぐったくて、首を伸ばすと耳の下を甘く歯を当てられる。
「や、やっ、ダメ! 髪上げらんなくなる! 夏なんだから! 着る服も無くなっちゃう!」
唇を私から離して、ひょいと覗き込むように顔を近づけた。
その表情は、いたずらを企んでるように、瞳をキラキラさせてた。
「そら、いいや。閉じ込めたるさ、このまま」
それは、むしろ犯罪だよっ。
蒼はふふん、と、楽しそうに鼻を鳴らしながら、首元にくちづけを落とした。
「やだぁ! ダメぇっ」
彼の肩を押して離れようとしたけど、ウエストに回された手にさらに力が入り、逃れられない。
恥ずかしくて、瞳が潤んできた。蒼は、ニヤリと口元を片方だけ上げて、
「なら、どこだったら、いい?」
「は」
「理和がOKなとこ、教えて」
かっと、顔に熱が上がって、両手で覆って、ナイナイという意味で首を振る。
「教えてくんなきゃ、困るの、理和じゃねーの? ビキニで隠れるとこだけ、ずーっとになっちゃうぜ? いいのかよ」
顔を覆ったまま、がっくりと、首を折る。なんで、そうなるの、それもビキニ限定。も、蒼って、蒼ってこんなひと、なんだっ!
「だろ? 教えろよ」
耳元に笑いを含んで、楽しそうな声でささやく。そして、私の左手の甲に吸いついた。
「だ、ダメ、ここ、ピアノ弾くと見えちゃう」
「あ、そうか。ふーん、ここは」
そのまま、手首に口づけ。
「ダメ、手と腕は、や」
顔から手を離して、背中に隠すと、彼は、わかりやすく眉をしかめて、唇を尖らして、すねた表情。
「えー?」
不服そうに、言うな!
「当り前じゃない! 今、夏だって言ってるじゃない!」
蒼は、一瞬、考えるように瞳が泳がせてから、私を見つめる。
「長袖、着るようになったら、手首より、上はイイ?」
そうくるか。頭を抱えたくなるくらい、切り替え早く、逃げ道を作らせないな。
「え、あ、う……」
言葉に詰まってると、私の返事を待たないで、蒼は、あっさり結論を出した。
「じゃ、秋まで待つ、として、ここは?」
と鎖骨を甘?みする。とくんと心臓が跳ねて、すっと、息が止まる。
「や」
「はぁ? じゃあ、どこまでいいんだよ」
そこまで、範囲を狭めたつもりはないのに、なんなの、この言い方は。ホント、蒼は荒い。
「そ、こは、ふ、冬まで、や」
「えー、冬? 長いっ。も、確認、ヤメるぞ」
「それくらい、待っててよ!」
『待ってて』
ふと、何か、おかしくなって、笑ってしまった。
蒼が、きょとんとして、首をかしげてる。
だって、次の、またその次の季節の約束をしてる。
この先、一緒にいる前提の。
蒼が、当り前のように言うのが、私は嬉しいのに、それに彼が気づいていない。
そうなの、あのとき、『待ってて』が言えればよかったの。
ふわっと、急に涙が溢れて、こぼれる。
かすんでる視界で、蒼が心配げに眉をひそめた。
「理和? どうしたんだ」
彼の声音が早口になってる。不安にさせたくなくて、蒼の体に腕を回した。
「あ、お」
蒼の想いに追いつくまで、『待ってて』が言えてたら、きっと、蒼は待っててくれたはずだもの。
『いつか、きっと』と言えばよかったの。
そうしたら、蒼をキズつけないで済んだ。
お母さんにも、つらかったことを思い出させずに済んだ。
神鳴様が来るたび思い出す、悲しくて、つらかったことも。
想い合ってても、近づけなかった長い時間もなく、今のような時を、キズのないまま迎えることが出来た。
蒼に、どれだけ、我慢をさせてきたんだろう。
それでも、私を迎えて、抱きしめてくれた。
蒼に、どれだけ『好き』と言ってもらったんだろう。
それは、彼の我慢と引き換えの言葉でもあった。
これから、私は、彼にどれだけの『好き』が返せるのかな。
きっと、一生かかっても、彼の『好き』に追いつかないかもしれない、けれど。
『待ってて』
蒼の胸から顔を上げ、泣き顔のまま微笑むと、彼はほっと、表情を緩めて、すぐに目尻にくちづけをくれた。
「好き。蒼が好きよ、ずっと、ね」
彼は、頬に唇をつけたまま、ささやく。
「俺も好き、ずっと、理和だけ」
顔を見て言いたくて、彼の頬に手を当て、こちらに向かせて、唇がくっつきそうなくらいまで、近づく。
蒼の瞳が細くなって、嬉しそうに私を覗き込んだ。
「蒼の『好き』が好きなの、嬉しいの」
唇をかすめながらの告白に、蒼は、くすぐったそうに、くくっと喉を鳴らした。
「俺も理和の『好き』が好きだよ。キリないなぁ」
ふたりでくすくす笑いながら、私は彼の首に腕を回して、蒼は私のウエストに腕を巻きつけて、カラダをぴったりくっつけて、くちづけをする。
とりあえず、これで、『好き』の言い合いっこは、今は、終わり。
いつも、これじゃあ、私の『好き』は、いつまで経っても蒼に追いつかないよ。
それでも、いつまでも、言うわ、蒼に『好き』と。
寄り添いながら。
ずっと、ずっと、ね。
神鳴様に見られていた悲しいことなんて、上書きできるように。
これからは、楽しくて、幸せなのばかり、見てもらうんだから。
これから、神鳴様が、来るときは、ずっと。
「うんっ」
窓を見ようと、体の向きを変える。
青空は本日、晴天の合図。
ちぎれたような長細い雲が、ほんの少し漂ってる。
ベッドの下に落ちてる、Tシャツとハーフパンツを手を伸ばして拾う。
ちらっと、背中越しに蒼を見ると、規則正しい寝息で、すこし幼くなったような寝顔。
大人の蒼の寝顔は初めて見る。
また、体の向きを変えて、蒼と向き合う。
(かわいい、なんて言ったら、怒りそう)
笑いが漏れないように、口元に力を入れて、髪をすいたり、頬を撫でたりした。
触れて、蒼を感じる時、愛しくて大事で、離したくないって想う。
(蒼も、神鳴様が来て、私が寝てた時、こんな気持ちだったのかな)
それでも、蒼はぴくりとも動かず、全く起きそうにない感じ。
(シャワー浴びてこよ、かな)
ウエストに置かれてる腕を、そうっと、持ち上げて、体を抜く。
もう一度、蒼を見るけど、気がつかないまま、眠り続けてる。
足音をたてないように、ドアの音をたてないように、バスに行く。
シャワーを浴びて、体を拭きながら、鏡に映る自分を見て、ん? と、鏡に近づく。
「う、わ」
思わず、鏡から顔をそむけて、胸から下を見て、がっくりと洗面台に手をつくと、二の腕の内側にも。
それも、両方。
(ちょっと、待って、え? いつのまに)
屈みこみたくなるのを、踏ん張って、下着をつけ、Tシャツとハーフパンツを着る。
着ながら、体の細かいところを見るたびに、蒼のくちづけの痕がある。
Tシャツの背中をめくって、鏡に映す。
(はぁ? どうして、こんなとこまで)
いよいよ、屈みこんで、頭を抱える。
(た、タチが悪い……計算ずく。着てきた服で、ギリ隠れるところまでだもん。怒っても、そう言い返されるに決まってる)
「りっ……? り、わ!」
「ん?」
「理和? 理和! どこだ!」
ドアの向こうからの悲鳴のような怒鳴り声に、慌てて、バスから出る。
「え、どうしたの」
ベッドの上の蒼は、顔をゆがめて、泣きそうな表情をしてた。
「いた……、理和。よかった」
彼は、うつむいて、はぁーっと長いため息。
私は、ベッドに腰かけて、彼の頭を撫でた。
「いるデショ。そりゃ」
「一瞬、夢かと思った」
「は」
蒼はパッと、顔を上げ、瞳を細めて、私を軽く睨んだ。
「理和が悪い。俺が起きるまで、側にいないから」
そして、手を伸ばして、私の着てるTシャツの首元を引っ張る。
それを戻そうと胸元でシャツを押さえた。すると、蒼の指先が鎖骨をなぞる。
「この痕、俺がつけたの、かなぁ」
「あっ、あたり前じゃない! シャツが伸びるよ、や!」
「俺んのだ、いいじゃん」
シャツを引っ張り続け、襟からついに肩まで出して、指で、つんつんと痕を突く。
「覚えてないなー、ここも」
「ウソよ! あちこち、あるんだから!」
「見せて」
「や」
「俺、覚えてない」
そんなことあるわけない! ほんのちょっと、前の事なのに!
「理和がいなかったショックで、忘れたんだ」
「ばっ、ばかっ」
「ホントだって」
後ろの髪を上げて、うなじを指先で、とん、と突いて、見ーっけ、とささやく。
「私の方が、知らないもん! いつのまに、そんな……」
彼の指が離れるように、首を振る。
「ちゃんと、聞いたじゃないか、イイ? って」
「覚えてるじゃない!」
「理和も返事した、ちゃんと」
「だって、も、わかんないくらい、だもの」
すると、うなじの指で突かれた所に唇の感触。
「もう、ダメ! や!」
「ナニ、怒ってんだよ」
「だって! こんなんじゃ、も、プールも海も行けない。約束してたのにー」
当分、水着なんて着れないよ。服だって、困るくらいなのに。シャツをぐいぐい引っ張られ、力でかなうわけなくて、ついに蒼の腕の中。そしたら、やっと、彼はTシャツから、手を離した。
「そりゃ、よかった。行かんで、ヨロシ、俺も行けないし」
「え?」
「肩、痛い。理和も俺に痕、残しただろ」
肩越し、ちらっと見ると、肩と腕の付け根の辺りに刻む、赤い爪痕。傷にはなってないけど、内出血がしばらく残るだろうか。
「お互い、だろが」
首筋に頬をよせて、擦りつける。くすぐったくて、首を伸ばすと耳の下を甘く歯を当てられる。
「や、やっ、ダメ! 髪上げらんなくなる! 夏なんだから! 着る服も無くなっちゃう!」
唇を私から離して、ひょいと覗き込むように顔を近づけた。
その表情は、いたずらを企んでるように、瞳をキラキラさせてた。
「そら、いいや。閉じ込めたるさ、このまま」
それは、むしろ犯罪だよっ。
蒼はふふん、と、楽しそうに鼻を鳴らしながら、首元にくちづけを落とした。
「やだぁ! ダメぇっ」
彼の肩を押して離れようとしたけど、ウエストに回された手にさらに力が入り、逃れられない。
恥ずかしくて、瞳が潤んできた。蒼は、ニヤリと口元を片方だけ上げて、
「なら、どこだったら、いい?」
「は」
「理和がOKなとこ、教えて」
かっと、顔に熱が上がって、両手で覆って、ナイナイという意味で首を振る。
「教えてくんなきゃ、困るの、理和じゃねーの? ビキニで隠れるとこだけ、ずーっとになっちゃうぜ? いいのかよ」
顔を覆ったまま、がっくりと、首を折る。なんで、そうなるの、それもビキニ限定。も、蒼って、蒼ってこんなひと、なんだっ!
「だろ? 教えろよ」
耳元に笑いを含んで、楽しそうな声でささやく。そして、私の左手の甲に吸いついた。
「だ、ダメ、ここ、ピアノ弾くと見えちゃう」
「あ、そうか。ふーん、ここは」
そのまま、手首に口づけ。
「ダメ、手と腕は、や」
顔から手を離して、背中に隠すと、彼は、わかりやすく眉をしかめて、唇を尖らして、すねた表情。
「えー?」
不服そうに、言うな!
「当り前じゃない! 今、夏だって言ってるじゃない!」
蒼は、一瞬、考えるように瞳が泳がせてから、私を見つめる。
「長袖、着るようになったら、手首より、上はイイ?」
そうくるか。頭を抱えたくなるくらい、切り替え早く、逃げ道を作らせないな。
「え、あ、う……」
言葉に詰まってると、私の返事を待たないで、蒼は、あっさり結論を出した。
「じゃ、秋まで待つ、として、ここは?」
と鎖骨を甘?みする。とくんと心臓が跳ねて、すっと、息が止まる。
「や」
「はぁ? じゃあ、どこまでいいんだよ」
そこまで、範囲を狭めたつもりはないのに、なんなの、この言い方は。ホント、蒼は荒い。
「そ、こは、ふ、冬まで、や」
「えー、冬? 長いっ。も、確認、ヤメるぞ」
「それくらい、待っててよ!」
『待ってて』
ふと、何か、おかしくなって、笑ってしまった。
蒼が、きょとんとして、首をかしげてる。
だって、次の、またその次の季節の約束をしてる。
この先、一緒にいる前提の。
蒼が、当り前のように言うのが、私は嬉しいのに、それに彼が気づいていない。
そうなの、あのとき、『待ってて』が言えればよかったの。
ふわっと、急に涙が溢れて、こぼれる。
かすんでる視界で、蒼が心配げに眉をひそめた。
「理和? どうしたんだ」
彼の声音が早口になってる。不安にさせたくなくて、蒼の体に腕を回した。
「あ、お」
蒼の想いに追いつくまで、『待ってて』が言えてたら、きっと、蒼は待っててくれたはずだもの。
『いつか、きっと』と言えばよかったの。
そうしたら、蒼をキズつけないで済んだ。
お母さんにも、つらかったことを思い出させずに済んだ。
神鳴様が来るたび思い出す、悲しくて、つらかったことも。
想い合ってても、近づけなかった長い時間もなく、今のような時を、キズのないまま迎えることが出来た。
蒼に、どれだけ、我慢をさせてきたんだろう。
それでも、私を迎えて、抱きしめてくれた。
蒼に、どれだけ『好き』と言ってもらったんだろう。
それは、彼の我慢と引き換えの言葉でもあった。
これから、私は、彼にどれだけの『好き』が返せるのかな。
きっと、一生かかっても、彼の『好き』に追いつかないかもしれない、けれど。
『待ってて』
蒼の胸から顔を上げ、泣き顔のまま微笑むと、彼はほっと、表情を緩めて、すぐに目尻にくちづけをくれた。
「好き。蒼が好きよ、ずっと、ね」
彼は、頬に唇をつけたまま、ささやく。
「俺も好き、ずっと、理和だけ」
顔を見て言いたくて、彼の頬に手を当て、こちらに向かせて、唇がくっつきそうなくらいまで、近づく。
蒼の瞳が細くなって、嬉しそうに私を覗き込んだ。
「蒼の『好き』が好きなの、嬉しいの」
唇をかすめながらの告白に、蒼は、くすぐったそうに、くくっと喉を鳴らした。
「俺も理和の『好き』が好きだよ。キリないなぁ」
ふたりでくすくす笑いながら、私は彼の首に腕を回して、蒼は私のウエストに腕を巻きつけて、カラダをぴったりくっつけて、くちづけをする。
とりあえず、これで、『好き』の言い合いっこは、今は、終わり。
いつも、これじゃあ、私の『好き』は、いつまで経っても蒼に追いつかないよ。
それでも、いつまでも、言うわ、蒼に『好き』と。
寄り添いながら。
ずっと、ずっと、ね。
神鳴様に見られていた悲しいことなんて、上書きできるように。
これからは、楽しくて、幸せなのばかり、見てもらうんだから。
これから、神鳴様が、来るときは、ずっと。