神鳴様が見ているよ
エピローグ
夏の真っ青な空に、くっきりとした形の綿菓子みたいな雲。
 入道雲は、神鳴様が来る合図。

 強くて冷たい風が、濃いグレイの雲を動かす。ひとすじの稲光とまもなくの雷鳴。 
 ぺたぺたと歩幅の短い、ふたり分の軽い足音。
 ドアが開いて、ふたつの小さい顔が今にも泣きそうに崩れて、私のもとに飛び込むように、しがみついてくる。

「カミナリはね、神鳴様っていう神様なのよ」 
 タオルケットをかぶせて、髪を撫でながら、
「大丈夫よ、怖くないわ。あれはね、神鳴様っていう神様が空で音楽を奏でてるのよ。神鳴様がドーンドーンって空を叩くと光になって稲妻になるの」
 ひとりのすうっと眠りに入った寝息、もうひとりもくすんと鼻を鳴らして、いつもの寝顔になる。 
「大丈夫よ、眠りなさい。寝ている間に、音楽は終わって、神鳴様は、いってしまうからね。おやすみ」
 廊下から、聞き慣れた足音が聞こえて、ドアに目を向ける。
 そっとドアノブが動いて、蒼がドアから顔だけ出して、私にうなずいてから、入ってくる。
 私の側に座って、完全に寝入ってしまったふたりの髪をすきながら、小さな声で、
「大したもん。この大きな神鳴様でも寝ちゃうなんて」
「私たちも、そうだったじゃない」
 瞳を手の平でこすってると、蒼が、私を覗き込んで、
「理和も眠そう」
「うん」
「ふたりと一緒に寝ればいい」
「ん」
 慣れた仕草で肩を抱かれて横たわると、すぐに瞳は閉じてしまった。
 ふわっと、上掛けが体に下りてきた感覚と髪を撫でてくれる馴染んだ指先。
 いつものように、眠りにおちる。

 神鳴様、見てる? 
 今日も、芙亜(ふあ)と芙生(ふき)、ふたりの子、元気です。蒼もね。
 まだ、神鳴様、怖がるけれど、これくらいの時は、私と蒼もそうでした。
 知ってるか、見てたものね、いつも。
 蒼との涙、苦しみも悲しみも、いつも、神鳴様の音楽の中で。
 蒼との喜びも幸せも、神鳴様、見ていたよね。
 神鳴様が来ると思い出すことばかり。
 今は、こんな緩やかで、楽しい日々なの。
 見えますか?
 子供たちは、いつか、神鳴様との思い出できるのかしら。
 楽しいのが、いいね。
 神鳴様の音楽を聴きながら、見られたくなくて、目隠ししちゃうこともあるかも。
 
 それでも、見てるよね、神鳴様。
 いつだって、音楽を奏でながら、ね。

【完】
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