いつも、雨
わたくしのスカートなんかよりも、ご自分の髪を乾かされたほうがいいのに……。

自分はずぶ濡れのまま、世話を焼いてくれる要人のことを、領子は心配そうに見つめていた。


「よし!綺麗なった!な?」

足元から要人が領子を見上げる。


「うん。……ありがとう。」

領子はお礼を言ってから、くるっと回って見せた。

ふわりと、白いスカートの裾が膨らんで広がった。


領子のアピールに、要人は苦笑した。

いつも高そうな凝った服を着ているけれど、この服は特別なのかもしれない。

幼稚園児でも、女……やなあ。


「かわいいかわいいわ」

要人がそう言うと、領子は不思議そうに尋ねた。

「どうして2回続けておっしゃったの?」


どうしてって……京都では……てゆーか、関西では?……よく使う用法なんだけどな。

形容詞を2回重ねて用いることで、強調を意味する。

つまり……ただ、「かわいい」んじゃなくて……


「……めっちゃかわいい、ってこと。」

そう言ったら、領子の頬がポッと赤く染まった。





タクシーが到着した。

要人は領子の手を引いて、玄関へと向かった。

領子は、うつむいて、もじもじしていたけれど……タクシーに乗る直前に、要人に自分のハンカチを差し出した。


「や。いいって。今さら。」

要人は受け取ろうとしなかったけれど、領子は背伸びして要人の濡れた前髪を拭こうとした。

40cm近い身長差だ。

一生懸命、手を伸ばす領子が、かわいくて、いじらしくて……要人は膝を折った。


「お嬢さま!新幹線に遅れますよ!」

ねえやに急かされ、領子はハンカチを要人の手に持たせると、慌てて身を翻した。


「領子さま、ハンカチ……」

要人の言葉は、タクシーのドアが閉まる音でかき消された。


窓越しでも、領子が泣いていることがわかった。


……涙を拭くハンカチが必要だろうに……。


領子のハンカチを握る手に力がこもった。


***********


3週間後。

ゴールデンウィークが始まると、一家は揃って京都にやって来た。

しかし両親の手前、恭風は要人と遊びに出ることはできない。

領子もまた、祖母の近くや庭に要人の影を探しては、落胆していた。




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