いつも、雨
小一時間ほどで、天花寺夫人と恭風は帰って来た。
夫人は怒りがおさまらないらしく、自室に閉じこもってしまい、夕食にも姿を見せなかった。
領子は食卓についたものの……食べ物が喉を通らない。
さすがに恭風もいつもほどは、食が進まないようだ。
お通夜よりも静かに2人は食事を終えた。
「病院……明日の朝イチで診てくれはるそうや。」
食後のコーヒーに口を付けてから、恭風が領子にそう言った。
領子は、恥ずかしさで消え入りそうになりながら、小さな声で言った。
「……お兄さま……あの、わたくし……たぶん……妊娠はしてないと思うのですが……。」
恭風は、苦笑した。
「なんや。やっぱり、そうなんか。……竹原が、変な顔してたから……もしかしたらそうなんかなって。……いや、堪忍。ほな、わしの勘違いやったんやな。……オオゴトにして、堪忍な。」
「……変な顔……。」
そう言えば、竹原は、わたくしの生理周期を熟知しているわ。
ねえやと同じように、そんなはずはないって、すぐにわかったのね……。
「せやけど、ちょうどエエ機会やし、竹原のことは諦めよし。……どう転んだって、お母さんは認めてくださらへんわ。あんたが成人してたら、駆け落ちしいって言うんやけどなあ……もう、こうなったら、成人するまで橘さまとの結婚を待ってくれへんやろうなあ……。」
「……。」
領子は唇を噛んで、うつむいた。
何も言えなかった。
わかっている。
妊娠しても中絶しろと迫られたのだ。
要人と駆け落ちしたら、母は迷わず、警察に通報するだろう。
逃げる手が見つからない。
完全に詰まれてしまったチェスの駒って、こういう気分なのかしら……。
心の中で悪態をつくことすらできない。
空っぽだわ……。
もう、わたくし……何もないわ……。
夫人は怒りがおさまらないらしく、自室に閉じこもってしまい、夕食にも姿を見せなかった。
領子は食卓についたものの……食べ物が喉を通らない。
さすがに恭風もいつもほどは、食が進まないようだ。
お通夜よりも静かに2人は食事を終えた。
「病院……明日の朝イチで診てくれはるそうや。」
食後のコーヒーに口を付けてから、恭風が領子にそう言った。
領子は、恥ずかしさで消え入りそうになりながら、小さな声で言った。
「……お兄さま……あの、わたくし……たぶん……妊娠はしてないと思うのですが……。」
恭風は、苦笑した。
「なんや。やっぱり、そうなんか。……竹原が、変な顔してたから……もしかしたらそうなんかなって。……いや、堪忍。ほな、わしの勘違いやったんやな。……オオゴトにして、堪忍な。」
「……変な顔……。」
そう言えば、竹原は、わたくしの生理周期を熟知しているわ。
ねえやと同じように、そんなはずはないって、すぐにわかったのね……。
「せやけど、ちょうどエエ機会やし、竹原のことは諦めよし。……どう転んだって、お母さんは認めてくださらへんわ。あんたが成人してたら、駆け落ちしいって言うんやけどなあ……もう、こうなったら、成人するまで橘さまとの結婚を待ってくれへんやろうなあ……。」
「……。」
領子は唇を噛んで、うつむいた。
何も言えなかった。
わかっている。
妊娠しても中絶しろと迫られたのだ。
要人と駆け落ちしたら、母は迷わず、警察に通報するだろう。
逃げる手が見つからない。
完全に詰まれてしまったチェスの駒って、こういう気分なのかしら……。
心の中で悪態をつくことすらできない。
空っぽだわ……。
もう、わたくし……何もないわ……。