いつも、雨
苦笑する要人に、領子はムキになってお願いした。

「よろしいじゃない!連れてって!お約束したもの!」

「うーん。……じゃあ、大奥様か、ねえやさんがオッケー言うたら。御所でも河原町でも新京極でも、お供するわ。聞いてみ?」


要人にそう言われて、領子は目に見えて怯んだ。

おばあさまはともかく、ねえやは反対するに決まってる。



……ねえやの留守中に、おばあさまだけにお願いしてみようかしら。




「え。竹原、河原町とかで遊んでるの?オトナ抜きで?」

恭風の目が輝いた。


いわゆる、繁華街だ。

大人と一緒ならともかく、中学生だけでうろつくことは、学校によっては禁止されている。

大都会東京の賑わいには、全く及びもしないが、小さな街ならではの雑多な賑わいもまた面白い。


「当たり前やん。オトナなんか居たらおもしろくないやん。ツレとアホなことするんがおもしろいんや。」

そんなふうに嘯いた要人は、知らない男に見えた。


恭風は「すげぇ……」と、目をキラキラ輝かせて、同い年なのに自分よりワイルドな要人に少年らしい憧憬を抱いた。

そして領子は……少女らしいときめきを、持て余していた。


「お兄ちゃん、不良?」

領子は不安そうにじっと見上げて聞いてみた。


要人の中に、言いようのない葛藤が渦巻いた。

恭風相手になら、多少のハッタリをかまして、悪ぶって見せただろう。

でも、領子には、何故かできなかった。


「……さあ?何が良くて、何が悪いんか、ついでに、何が普通なんか、俺も、よぉわからんわ。」

結果、ものすごく不器用なことを言ってしまった。



しかし実際のところ、要人は物事を善悪で二分することはできないと知っていた。



要人は頭がいい。

つい少し前まで公立の、しかもレベルの低い地域の小学校に通い、塾にも行ってなかった。

しかし学校で受けた統一模試も、IQテストも、教師が引くほどの高得点を叩き出した。


するとどこから情報を得ているのか、いくつもの有名私立中学校から特待生の誘いが来た。

早くに両親を亡くした要人は、世話になっている親戚と、天花寺の大奥様に相談して、一番条件のよかった男子校の進学校に進んだ。

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