いつも、雨
こみ上げてくる感情と涙を必死でこらえる。

障子が開く……。

領子は慌てて目をつぶった。

ぎゅっと力を入れたので、目の下の筋肉がピクピクと震える。


目を閉じていてもわかる。

要人が、忍んで来たのだ。


目を開けるべきかどうか……悩んでいると、気配が近づいてきた!


きゃーっ!


心の中で、小さな領子が叫びながら走り回っている。


ドキドキする……。


「無理に狸寝入りされる必要はありませんよ。」

耳許でそう囁かれて、領子はパチッと目を開けた。


至近距離で、要人が領子を見つめていた。


……竹原……やだ……カッコイイ……。

どうしよう……。

いえ。

竹原は、昔からかっこよかったわ。

でも、でも、久しぶりだからとかじゃなくて……本当に……すごくかっこよくなった気がする……。



領子の心臓が痛いほどに賑やかに活動し始めた。

頬が熱い……。




「……やっと、お人形じゃなくなった。」

ホッとしたように、要人がつぶやいた。


「……お人形……わたくしのこと?……やっぱり、ずっと見てらしたのね。……ずるいわ。」

領子はそう言って、むっくりと上半身を起こした。


黒い髪がさらさらと流れ落ちる。

薄い夜着にくっきりと浮かび上がる乳房の張りに、要人は目を細めた。


「ずるい……ですか。領子さま。中身は、お変わりありませんね。」

「竹原もね。あいかわらず……素直じゃないのね。イケズね。」


わざわざこうして来たくせに、からかうような口振り。


領子は、自分からするりと要人の胸に頬をうずめた。


「逢いたかったわ。ずっとずっと、逢いたかったわ。」



……変わらないのは、成長しないからだと思っていたが……どうやらそういうわけではないらしい。

心を閉ざしお人形になることで、領子は要人への想いを封印していた。

変わらないために、自分でそう努めていたのだろう。


要人の頬が緩み……そして、強張った。


領子の中で、状況は何も変わってないことに気づいてしまった。



このお姫さまは、俺が、単に夜這いを仕掛けただけとしか思っていない。

迎えに来たとは、思っていないのか。
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