いつも、雨
「……奥さまのこと、ご愁傷様でした。突然過ぎて、まだ実感がわきません。」

要人は、神妙にそう言ってみた。


領子の瞳が潤んだ。

「わたくしもです。……孫の誕生を楽しみにしてらしたのに……。」


「領子さまの、ご婚礼も、さぞや楽しみにしていらしたのでしょうね。」

要人はそんな皮肉を言いながら、領子の髪を……背中を……優しく撫でる。

くすぐったくて、気持ちよくて……力が抜けていく……。

ふふっと笑って……領子は要人にしがみついた。

「……本当に、意地悪ね。」

「これでも、緊張して臆病になっているんですよ。……ますますお美しくなられた……。」

「まあ。どの口がそんなことをおっしゃるのかしら。」

領子は下から要人を見上げた。


視線が、甘く絡み合う……。


ああ……。

このまま……時が止まってしまえばいい……。

明日なんて、永遠に来なければいい……。



領子は、上半身を伸ばして、自分から唇を押し付けた。

要人の目がパチクリとまばたき……ふっと笑った。

「……また……先を越されてしまいましたね。」


そういえば、ファーストキスも、わたくしが奪ったんだわ。

「だって、竹原……もったいぶってるのか、余裕ぶってるのかわかりませんけど……じれったいんですもの。」


領子の尖らせた唇に、要人が口付ける。

小鳥がついばむような軽いキスを何度も繰り返した。


ディープキスがもらえるものと期待した領子は、多少拍子抜けした。


「……もっと。」

ほんと、じれったいわ。

これって、わざとなのかしら。

わたくしからおねだりするように、仕向けてるのかしら。


……でも、いいわ。

ずっとこうしてほしかったんですもの。

最後に、夢が叶って……うれしいわ。

幸せよ。

わたくし、本当に……幸せ……。





予想以上に積極的な領子とは対照的に、要人のほうがためらいがちだった。


ずっとこっそりストーカーのように、陰から領子を見つめてきた。

長ずるにつれてより一層美しくなったことも、もちろん知っている。

でも、もっと硬質な表情しか目にしていなかった。
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