いつも、雨
「きゃっ。」

魚が跳ねるように領子は反り返った。

育った乳房がこれ見よがしに大きく揺れた。


「……もう。恥ずかしいわ。」

領子は慌ててシーツにくるまり、背を向けた。


新鮮な反応がかわいくて……要人はシーツごと、領子を背後から抱きしめた。


「竹原?……そろそろ、ねえやが……キタさんが起きるわ。」

領子は多少焦ってそう言った。


でも要人はさらに、腕に力を込めた。

「……久しぶりだな、キタさん。」

「久しぶりって……」

まさか、逢って行く気?

え?

帰らないの?


驚いて、領子は勢い良く振り返った。

要人の目がじっと領子を捉えた。



「竹原……。」

「領子さま。待たせてごめん。迎えに来た。一緒に京都で暮らそう。……俺と、結婚してください。」

要人は、ニコリともせず……真面目にそう言った。


夕べの行為の手応えから、てっきり領子は泣いて喜んでくれると思っていた。

頬を染めて、真っ赤になって喜んでくれると……信じて疑わなかった。


だが、要人の目測は完全に誤っていた。


むしろ領子の瞳に、さっと陰がさしてしまった。



「領子さま?」

わけがわからず、要人は領子の両肩を持ち、ぐるっと半回転させて自分の正面を向かせた。


領子は、暗い瞳で……要人をじとーっと見ていた。



……これは……拗ねてる?

いや……怒ってるのか?

意味がわからない。




領子は、要人の目を見据えて言った。

「……今さら、何言ってらっしゃるの?そんなことできるわけないでしょう?」

「領子さま……。」


おかしい。

ベッドの中で、あんなに愛を確かめ合ったのに……。


「俺より、橘……千歳さまのほうが、大事になった?」


知らない間に、千歳と情を通わしているのだろうか。

そんなそぶりはいっこうに見えないのだが……。



領子は、要人の問いを鼻で笑った。

「比較することじゃありませんわ。千歳さまにお仕えすることはわたくしの義務です。……どれだけ心から竹原を愛していても……約束を違(たが)えることはできません。」

「約束って……結納?別に、今時、婚約破棄ぐらいかまへんやん。」
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