いつも、雨
どうやら領子は、拗ねているわけでも、意地を張っているわけでもないらしい。

経験上、頑(かたく)なな領子は、けっこうめんどくさいことを、要人はよくよく知っている。


要人はたたみかけるように言った。

「結納金だけじゃなく、今まで天花寺家に援助してくださった金も、俺が全部返す。慰謝料も付ける。だから、領子さまは、黙って俺の言う通りにしとき。一生、誰よりも、幸せにしてさしあげますから。」


領子は力なく笑った。


「……お金の問題じゃありません。わからないの?……わたくし……同じことばを、もっと早く聞きたかったわ……。ずっと……竹原にそばにいてほしかったわ……。でも、わたくしのそばにいたのは、お母さまだった。わたくしの自由を奪って雁字搦めに束縛しようとしていらしたけれど……確かに窮屈でしたけど、おかげでわたくし、竹原のいない日々を生きてこられたの。お母さまに支えられ、キタさんに慰められ、橘のおじさまの慈愛に包み込んでいただいて……何も考えない、竹原を求めて泣かない、そんなお人形になっていられたの。」

「……。」

要人は、相づちを打つこともできなかった。



今さら……は、俺のセリフだ。

何のために、大学を中退して、東京を離れたのか。



すべて、領子を守るためだ。

あの時は、ああするしかなかったはずだ。



俺は……選択を誤ったと言うのか?




「……あの頃とは、状況が変わりましたが……臨機応変におなりになれませんか?」


信じてきた自らの判断と道を、一番理解してほしい存在に否定されてしまった……。

要人の声が、動揺で震えている。




「状況って、母の死のこと?竹原は、チャンスだと思ったの?……実の母親の死を待たれていたとは思いたくないんだけど……。」


「……。」


もちろん、要人はどんなに酷く侮蔑されたとは言え、天花寺夫人の死を願ったりはしなかった。

ただ、見返したかっただけだ。
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