いつも、雨
株で金を稼いでも、所詮「成金」「あぶく銭」と言われるのは最初からわかっていた。

だから、会社を作った。

経営が立ちゆかなくなった同級生の実家の工場に多額の投資をし、新しい機械と新しいシステムの導入に尽力し、工場を建て直したことがきっかけだった。

中小企業再生コンサルタントを表の看板にして、事業を展開した。


しかし天花寺夫人は、それを、「ひとの弱みにつけ込んだいやらしい金貸し」と言った。



橘家は旧財閥の創始者一族だ。

今も名誉職のような役員に納まり、高額な役員報酬と、株の配当金を手にしている。



対して、要人のことは、どれだけ業績を上げても、「いやしい高利貸し」としか思えないらしい。




くやしかった……。

ただただ天花寺夫人を見返したくて……要人は再生コンサルティングからM&Aにシフトした。


現在は、飛ぶ鳥落とす勢いで、要人は若き経営者として頭角を現している。

経済界での人脈を増やし、業種を越えて発展しているところだ。


それもこれも、すべて、領子にふさわしい男になるため……天花寺夫人に認めてもらうためだったのに……。


「……そんなつもりはありません。お世話になった奥さまの訃報は残念でなりません。……奥さまに……認めていただける男になりたくて……がんばってまいりました。」


要人の言葉が、取り繕ったものではなく、心からのものだということは、わかる。

わかるが……領子は、皮肉を感じた。


「……そうだったの?知らなかったわ。母も、わたくしも……てっきり、竹原はあきらめたのだと思っていたわ。」


二の句を継げない。


確かに、あの時点では、あきらめた。

でも、あれが終わりというつもりはなかった。


……極端な言い方をすれば、領子が順当に橘家に嫁いでも……結婚生活がうまくいくとは限らない。

離婚して出戻って来れば、状況は変わっただろう。

亡き天花寺夫人も、さすがに再婚相手にまでこだわりを通すことはできない。


その頃までに、要人が社会的に成功していれば、あるいは認めてくださったかもしれない。


そんな長期的な展望を、……それも、何の確約もない展開を夢想してがんばってきたが……これでは、まるでピエロだ。
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