いつも、雨
……いや。

荒唐無稽と笑われても、信じてもらえなくても……そんな未来もあると、ちゃんと領子に伝えるべきだったのか……。


もちろん、領子の結婚生活が幸せなものならば、それはそれでいい。

そう思っていたのも事実だ。

心から、領子の幸せを願っていた……。



結局、自分自身の立ち位置が中途半端過ぎたのが原因なのだろう。

でも。

先のことはわからない。

今までも、これからも、どう転ぶかなんか、誰もわからない。

人生もビジネスも、思い通りになんかいかない。

状況は刻一刻と変化する。

その時その時に、最善を尽くすしかない。


その積み重ねが、利益であり、実績であり……人間関係なのだ……。



つまり、俺は……間違えたのか……。



夢物語でも、ピロートークでも、領子に睦言を吹き込むべきだった。



約束できない言葉を領子さまには、言いたくなかった。

それは紛れもなく、俺の、……俺なりの誠実さだった……。

だが、そんなものは無意味だった、というわけだ。

……参ったな。


要人は、口元を抑えた。

そうでもしないと、自嘲の笑いがこみ上げてきそうだった。




「……キタさん、起きたみたい。……気づかれないうちに、帰って。」

何の感情もこめず、淡々と領子は言った。


罵られるより、怒鳴られるより……鋭く、要人の胸に突き刺さった。


「また……人形に戻るおつもりですか。」

「……そのほうが楽ですから。……ありがとう。竹原。最後に逢えて、うれしかったわ。」

領子は、そう言って、無理矢理ニッコリとほほえんで見せた。


痛々しい笑顔に、要人のが潤む。


……それで、いいのか?

本当に、そんなので……幸せになれるのか?


「領子さま。俺は……ずっと、貴女(あなた)を……愛しています。……最後にするつもり、ないから。」

反省を踏まえて、要人は領子にそう伝えた。



でも領子は首を横に振った。

「やめて。今さら……。もうとっくに、夢をみることはあきらめたの。わたくしは、わたくしの義務を果たします。竹原も、もうわたくしのことは忘れてください。」

さすがに、最後は声が震えた。


忘れられるはずがない。

わたくし自身も……竹原も……忘れるなんて……できない。

身体もけだるさが消えても……、わたくしの中でうごめく竹原の精子が力尽きても……心は消えない……。
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