いつも、雨
俺は、大馬鹿者だ。

結局、どんなに無理しても、近くに居なければいけなかったのだ。


どうして……離れてしまったのだろう。


今さらすぎる……か。

なるほど。

領子の気持ちになれば、確かに「今さら」なのだろう。



要人の涙が止まった。


……これ以上は、未練だ。

領子は、子ども達を結婚させたいとまで言った。

それが領子の願いなら、叶えてやる。

今度こそ、誰も身分違いとは言えない……成金は成金でも、ただの成金で終わらない。

橘家の旧財閥グループに対峙できる存在になる……なれるのか?


壮大すぎて見当がつかないが……。

……一生かかりそうだな。


いや、あちらが大きくつまづかない限り、普通は無理だろう。

だが人生の目標としては、悪くない。


……ああ。

悪くない目標だ。



要人は何度も心の中で繰り返した。



悪くない。

それも、悪くない……と。






要人は、最後に領子にキスをした。

領子の大好きな、深いキス。



ぐったりして、身体に力の入らない領子の手に、要人は小さなモノを握らせた。

「……お土産?」

領子の問いに領子は笑顔を見せた。


精一杯の、強がりの、笑顔。

そして、背中を向けて……音もなく障子を開けた。




……行ってしまう……。

私の……初恋……。


何となく泣きたい気もしたけれど……領子は、泣かなかった。

ただぼんやりと、見つめていた。


やっぱり、わたくしの中では、もう終わった恋だったということかしら。

それとも、わたくし……また、お人形に戻ったのかしら……。

大好きな竹原との、2度めのお別れ。

まさか、別れになれてしまったのかしら。

淋しすぎるわね……そんなの……。


何か言わなきゃ。

何か……。


「竹原……ありがとう。……また、逢える日を楽しみにしてるわ。」

やっとそれだけ言った。


要人は領子を見ないまま、会釈らしきものをして……後ろ手で障子を閉めた。
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