いつも、雨
……怒ってる?

それとも、傷ついた?

ごめんなさい。

でも、ありがとう。

うれしかったわ。



領子は、何度もそうつぶやいて、それから要人が握らせたモノの存在を思い出した。


お土産……。

これが最後のお土産になるのかしら。



そっと手を開く。



……指輪……。



大胆に波打ったプラチナの台に大きな細長いマーキズ・ブリリアント・カットのダイヤモンドと、一回り小さめのペアシェーブ・ブリリアン・カットのダイヤをまるでユリの花かカラーの花のように配列した、ゴージャスなのに上品な逸品だった。


領子はマジマジとファッションリングにしては豪華過ぎる大きなダイヤを眺めた。


かつて要人が領子に残して行ったダイヤモンドルースは、それだけで都内に新築物件を買える値打ちがある……と、宝石に詳しい学友が言っていた。

今回のこの指輪も、どう見てもイイ物なのだろう。



こんな……高いもの……また……。

これって……もしかして……エンゲージリングなの?

竹原……本当に……わたくしを……迎えに来てくれたの?



「う……。」

涙がこみ上げて来た。


けど、パタパタとキタさんらしい足音が近づいてきた。


領子は慌てて鼻をすすり、涙を飲み込むと、寝乱れた寝具と夜着を整えた。

そして何事もなかったように、とりすました。




「おはようございます。領子さま。あとは、領子さまのお身の回りの品だけです。荷造りさせていただいて、よろしいですか?」

「おはよう。キタさん。よろしくお願いします。」

領子はいつも通りにそう挨拶して、寝具からすっくと立ち上がった。


キラッと、領子の左手の薬指で2つのダイヤが輝いたのを、キタさんは見逃さなかった。


……初めて見る指輪だわ……。

モヤモヤしたけれど、キタさんは気づかないふりをした。


ただ、その位置はまずいかもしれない。

橘家に到着するまでに、それとなく注意しなくては。


キタさんは、なるべく差し出がましくならないように……送り主のことはスルーする決意をした。
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