いつも、雨
奥から出てきたのは、優しそうな笑顔の老女だった。

要人(かなと)は何度か見かけたことがあるが、領子(えりこ)は初対面だ。


「はじめまして。天花寺領子です。おばあさまのお友達でいらっしゃいますか?」

小さな領子がかしこまってそう挨拶すると、老女はふふっと笑った。

「領子ちゃん。ごきげんよう。かしこいのね。どうぞ。お茶でも召し上がってらして。……あなたも。いつもご苦労さまですね。久しぶりにお見かけいたしましたけれど……また、かっこよくなられたわねえ。ふふっ。」


領子はうれしそうに頬を染め、要人はどう返答すべきかわからず、ただ会釈した。

老女は、藤巻、と名乗った。


「藤巻のおばさまは、いつから祖母とお友達ですか?」

「東京の女学校でご一緒しましたのよ。同窓会で再会して、以来、ご一緒に観劇したり、お茶会をしたり、仲良くさせていただいてますの。……領子さま、脚を崩してくださいな。あなたも。お作法とか気にせず、くつろいでくださっていいのよ。」


突如現れた小さな姫とその従者の少年を、藤巻夫人は茶席でもてなした。

……ちょうど、炉を熾していたのよ……と、言って。



お茶って、紅茶とケーキだと思ったのに……お抹茶?

まだ領子は茶道を習っていない。

でも、ジュースを出すような子供扱いではなく、ちゃんとしたお客さまとしてもてなされると感じて、イイ気分だった。



対照的に、要人は腹の中で舌打ちした。

……このばあさん、喰えない。

これまで要人のことをお使いの小僧とぐらいにしか思ってなかっただろうに、今こうして、要人まで茶席に上げたのは……領子ではなく、要人を値踏みしているに違いない。



要人は、茶道なんか習ったことがない。

小学校の特別授業に華道や茶道はあったが、当時つきあっていた彼女に出席票を出してもらって、要人自身はサボってしまった。

あとは、大奥さまのお茶会や、恭風のお点前を見ていた程度だ。

でも、要人にはそれで充分だった。



見よう見まねで、茶席に入り、お菓子を食べ、お薄を飲んだ。

藤巻夫人は、何も知らない領子と、ほぼ完璧な要人を、ただニコニコと見ていた。
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