いつも、雨
さすがに、流用する気にはなれなかった。

要人は、早急に佐那子のためのダイヤを探してもらうことにした。



「相応(ふさ)しい石が入り次第、指輪にしてもらうけど、いつになるか……。ごめん。……代わりに、これ。……ファッションリングにしかならないけど……。」

申し訳なさそうに要人はポケットからキラキラ輝く指輪を取り出した。

小さめのダイヤと真珠が斜めに広がって配列された、存在感があるのに可憐なデザインだった。


「鈴蘭!素敵!!」

佐那子は、満面の笑顔で要人に抱きついた。



……鈴蘭……なるほど。

そう見えなくもないな……。


店主に、佐那子の好みを伝えて、選んでもらったのだが……どうやら気に入ってもらったようだ。


「うれしいわ。ね、これで充分。ううん、これがいい。他のものはいらないわ。もったいないから、断わってくださいな。」

遠慮ではなく、佐那子は本気でそんなことを言っていた。


「いや、それは……。」

「だって、とってもロマンティックなんですもの。……笑われるかもしれないけど……私ね、本当に、エンゲージリングは真珠がよかったの。……『赤毛のアン』でアンがギルにもらうのも、真珠なのよ。」


要人は、ふっとほほ笑んだ。

先刻承知だ。


佐那子が、あまりに楽しそうに教えてくれるので、要人は番外編まで合わせて12冊もの文庫本を読んだ。

子供向けの児童書だと思っていたが、結婚し、子供が産まれ、子供達が大人になり、戦争に行ったり、恋をしたりと、年代記のようだった。


佐那子がやたらにピクニックや自然や手作りを愛するのも、アンの影響だとよくわかった。

……まあ、佐那子の場合は憧れるばかりで、自分では料理も裁縫も苦手意識が強いらしいが。




「社長。そろそろ……。」 

いつから居たのか、遠慮がちに秘書の原が声をかけた。

レストランを予約した時間が迫っていた。


「わ!もうこんな時間!要人さん、行こっ。」

今日の店は、佐那子のお気に入りのレストランにしたらしい。

山の中腹の一軒家で、夜景と蛍を同時にを眺めることができるそうだ。


残念ながら蛍のシーズンではないし、少し雨がパラついているけれど、だからこそ当日予約ができたのだろう。
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