いつも、雨
領子は30分ほどでそわそわし出した。

飽きた……というよりは、動物園、そして鴨五郎が気になるのだろう。

やんわり領子を窘めるか、それとも、辞去すべきか……様子を見ていると、藤巻夫人が解放してくれた。


「ありがとうございました!」

嬉々として立ち上がった領子の後に続いて、要人もすっくと立ち上がる。

と、藤巻夫人が要人に言った。

「……形だけ真似ても仕方ないのよ。あなた、心を学ばないと。」

「心……?」

突如わけのわからないダメ出しをされて、要人はオウム返ししてしまった。


藤巻夫人はふふっとほほ笑んで、小声で言った。

「今は興味ないかもしれませんけど、京都にいらっしゃる限り、役に立つこともありましょう。よろしければ、いつでも訪ねていらっしゃい。教えてさしあげましょう。」


ざわざわと、胸がさざ波を立てた。

この上品な老婦人は、俺に気があるらしい。

……なるほど。

そっちがそのつもりなら、せいぜい利用させてもらうだけだ。


「新学期が始まって、学校に慣れてからでも、いいですか?」

素っ気なくそう言ったら、藤巻夫人は嫣然とほほえんだ。





動物園は、春休みのせいか、けっこう賑わっていた。

……というより、今を盛りと咲き誇る桜のせいで、岡崎一帯は観光客でいっぱいだ。

そのなかでは、動物園はまだマシかもしれない。

雨が降ったりやんだりしているせいだろう。


「フラミンゴ!」

領子は、数ある動物のなかで、なぜかフラミンゴを気に入っているようだ。


「……雨のせいか、強烈やな。臭い。……でも、領子さまは、なんでフラミンゴが好きなん?」


「綺麗ですもの。すっとして立ってて。鶴も綺麗だけど、フラミンゴのほうがピンクがかわいいもん。」


……かわいい……かねえ?

むしろ鶴のほうが白くて綺麗だと思うけど。


そんな風に思いながら、フラミンゴの檻を眺めていて、要人は気づいた。

「でもほら、もとは白いんちゃう?ちっちゃい子はピンクじゃないで?」


「そうよ。白いの。ピンクは大人のレィディの証なのよ。」

妙にこまっしゃくれてそう言った領子は、滑稽なぐらいかわいかった。




フラミンゴだけで満足した領子は、猿山に向かおうとする要人の腕をぐいぐいひいた。
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