いつも、雨
よほど興味があるらしい恭匡(やすまさ)に、領子(えりこ)はそんな風に説明した。

「僕も、好きー!」

ニコッと笑った恭匡は、抱きしめずにはいられないほど、好いたらしくかわいかった。


……俺も、好きー……と、心の中で要人(かなと)も賛同はしたものの、甥にメロメロな領子に釈然としないものを感じていた。

要人は本気で3歳の子供に焼き餅を焼いたらしい。


重症だな。

……まあ、今さらか。


何年逢ってなくても、他人の妻になっても、要人の領子への執着心は消えない。

折々の贈り物で気を引き、実家の経済を牛耳り、……領子の夫の仕事を気まぐれに揺さぶってきた。

このタイミングで橘千歳が海外出張させられているのも、実は、要人が手を回した。


理由はただ一つ。

要人は、静子の葬儀で、領子が夫に仲睦まじく寄り添っているのを見たくなかった……。

自分は妻の佐那子を連れてゆきながら、勝手な言い草かもしれないが。



……恭風(やすかぜ)さまに紹介するチャンスだったんだから、仕方ない。

それにしても……恭匡さま……。


あまり……というか、まったく他人に懐かない……いや、実の母親にも甘えることのなかった子が、初対面の佐那子にあんなに心を開くとは思っていなかった。


……さすがだな。


無邪気で心の広い、優しい妻のコミュ力に、要人は感嘆すると同時に……やはりあまり外に出したくない……と改めて思ってしまった。


そして、領子が恭匡をこんなにかわいがるとも思わなかった。



いずれにしても、要人は、女の趣味が同じという意外な共通点を見出し、俄然、恭匡に興味を抱いた。









「冗談や戯れじゃなくて……本当に、恭匡さまに嫉妬しましたよ。」

ようやく2人きりになってから、要人は領子にそんなことを言った。


時間差をつけて別々に辞去して、こっそり渡された紙片に書かれたホテルへと向かった。

領子がエントランスに現れたのを見て、ロビーで新聞を読んでいた要人がごく自然にエレベーターホールへと向かった。

迷わず、領子はその背中を追った。


エレベーターの中でも、領子は要人に話し掛けず、少し離れて立っていた。

要人も何も言わなかった。


エレベーターを降りてから、誰もいない静かな廊下で、ようやく2人は寄り添った。


要人は、大仰にため息をついて見せてから……領子に、幼い恭匡への焼き餅を訴え責めた。
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