いつも、雨
もじもじしてる領子が、かわいくてかわいくてしょうがない。


言いたいことは、よくよくわかっている。


旦那の子か、俺の子か、わからないと言いたいんだろう?

……そんなこと、とっくに覚悟してるのに。

今さらなことだ。

どっちでもいいんだよ。

俺にとって何より大切なのは、領子さまなんだから。



要人は領子をじいっと見つめて言った。

「何もご心配されることはありません。すべてお任せください。領子さまは元気な赤ちゃんに逢える日を楽しみに、ゆったり過ごしてくたさいますよう。」

「……。」


領子の身体が小刻みに震えだした。


心配するなと言うほうが、無理だ。

どうしよう。

恐ろしいことになってしまった……。

千歳さまの子供なら、橘家は大喜びしてくださるだろう。

でも、竹原の子供だったら、それは、誤魔化しようのない不貞だ。


何てこと。

理性と感情が、一致しない。

あってはならないことなのに……わたくしは……竹原の子供が欲しいと、願っている。

……千歳さまの子供でなきゃいけないのに……嫌なの……。



「領子さま。大丈夫。大丈夫ですから。」

要人は領子を抱きしめて、何度もそう繰り返した。


領子の震えが、しゃくりあげるような嗚咽に変わった。

涙声で、領子が何かを呻いた。


ん?……と、要人は耳を傾けた。


領子は涙目で見上げて訴えた。

「竹原の子供が欲しいの……。ダメなのに……。どうしたらいいの……。こんな……。ほんとにダメなのに……。」


心臓を鷲掴みにされた。


……このかたは……どこまで……俺を……、この俺を……夢中ににさせてしまうつもりなんだろう……。

その言葉だけで、充分過ぎる。


要人は込み上げてくる熱いモノに打ち震えた。

「……ダメじゃない。俺も、あなたに、……俺の子供を、産んでほしい。」

「竹原……。」


ぶわっと、領子の両目に新たな涙が溢れ、白い美しい頬を滝のように流れ落ちた。


要人は、ハンカチで領子の涙を拭ってやって、それから言った。

「とにかく、病院に参りましょう。大丈夫。俺が守ります。何があっても。」
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