いつも、雨
結局、お味噌汁はインスタントになった……。

いつものことなので、要人は文句も言わず、もくもくと冷えた赤飯とフリーズドライの味噌汁で空腹を満たした。


佐那子は良き妻、良き母ではあったが、あいかわらず家政は不得手だった。



「お礼状、出しておきますね。」

「あー、いや。俺が電話しておくよ。……恭風さまに用事もあるし。」

「そうですか。では、お願いしますね。」

要人は、笑顔でごまかした。


それにしても……。

音信不通、要人を避けまくってきた領子さまからの内祝……か。

ようやくお怒りが解けたのだろうか。



要人は、書斎にこもってから、領子の護衛を依頼している江連に連絡をとった。

「若奥さまは、お元気になられたか?」

『……社長。それが……』

いつもは淡々と状況を報告する江連が、言葉に詰まった。


要人は不安にかられた。

「どうした?何かあったのか?」


江連は一瞬のためらいの後、低い声で言った。

『……今日の検診の後、橘家にお戻りになられる予定でしたが、もうしばらく天花寺家に留まられることになりそうです。若奥さまだけ……。』

「……だけ?それは……」


要人の質問にならない質問に、江連は簡潔に答えた。


『百合子さまは、橘の奥さまが連れて帰られるそうです。』

「……どういうことだ。」


まだ産後1ヶ月だというのに、母親と赤子を引き離すなどと、あり得ないだろう。

要人の胸に不安が渦巻く。

まさか……産後の肥立ちが悪いとか?


江連は言葉を選び選んで口を開いた。

『若奥さまは、お身体は回復してらっしゃるのですが……ご気分がすぐれないらしく……来週、心療内科の予約を入れられたそうです。』

「……産後鬱、ということか?」

育児書で見知った言葉を、要人は初めて口にした。


『その疑いがあるようです。』

江連は否定しなかった。


要人は、思わず舌打ちした。


……なんてことだ……。

領子さま……あなたは……。


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