いつも、雨
天花寺の大奥さまから藤巻夫人の情報をしっかり仕入れると同時に、大奥さまからの口添えを得ることに成功した。

ただのお使いの中学男子ではなく、天花寺家お抱えの、いわば書生のような存在とアピールしたようなものだ。

藤巻夫人に茶道を教わることにはかわりはないが、少なくとも足元を見られてつけこまれる屈辱はなくなったわけだ。


天花寺の大奥さまは、旧友の藤巻夫人の悪癖も、要人の目算も正しく理解した上で送り出した。

茶道を教えることぐらいは自分でもできる。

でも、要人には、視野と、その世界を広げてほしい。

この子は大物になる。

幼少期から要人を見てきた大奥さまは、そんな確信を抱いている。


斜陽の天花寺を支えてくれるかも、あるいは、改革してくれるかもしれない。

切実な思惑は言葉にしなくても、要人への期待として伝わるものだ。

同い年とは言え、恭風と遊びに行くのを黙認してきたのも、ヒトとヒトとして仲良くなってほしいからに他ならない。

かつて代々主従だった……そんな過去のつながりではなくて。





オトナ達の目論見通り、要人は多方面から注がれる教育を吸収した。

学校の成績は、勉強しなくてもずっとトップだった。

その時々……そしてたまには複数の彼女がいる時もあった。

毎日忙しい、充実した日々……のはずなのだが……要人の心はいつも餓(かつ)えていた。



「餓鬼道、やな。」

鴨五郎は仏教の六道輪廻になぞらえて、要人の満たされない心をそう表した。

「……確かに。多少の金を手に入れても、女を抱いても……充実感はないかもしれんけど……餓鬼道って……。」

多少ではない。

僅かな小遣いが、鴨五郎の気まぐれに出すヒントを参考に短期間での売買を繰り返しているうちに、小さな家が建つほどに増えた。


不思議な奴だ……。

鴨五郎は、改めて要人を見た。

普通、中学生やそこらで大金を手に入れたら、とりあえず欲しいものを買ったり、遊んだりするだろう。

ココには気遣って連れて来ないだけで、要人には大勢の悪友もいる。

決して金が不要なわけではないだろう。


……やりたいことがない、ということか。

それとも、わからないのか。
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