いつも、雨
「竹原は、何もしないで。わたくしのために、離婚するとか、……舅に名乗り出るとか……論外だから。……そんなことしたら……死ぬから。」


ぽろぽろと、領子の両目から涙の粒がこぼれ落ちる。

その一つ一つが、要人にとってはダイヤモンドよりも尊く価値のあるものだ。


要人は、領子の涙をティッシュでそっと拭って、それから言った。

「……では……一緒に、死にましょうか。」



また、そんな極端なことを……。


領子は、首を横に振った。

「これ以上、お義父さまを悲しませたくない。」



要人は、途方に暮れた。


では、どうすればいい?

俺は、このかたに……何をしてさしあげたらいい?

何もできないのか?


……領子さまを、少しでも……楽にしてさしあげたいのに……。



「貴女の前では、俺はいつも無力ですね……。」

くやしそうに要人がつぶやいた。


「そんなことなくてよ。……こうして側にいてくださることが、当たり前なことでも、簡単なことでもないということを、わたくし、知ってますわ。……どれだけ心強いか……。本当よ。」


そう言ってから、領子は苦笑して……言葉を継いだ。


「……わたくし、お義父さまに、言えなかったわ。竹原とはもう逢わないって。そんな選択肢、もうとっくに、わたくしの中にはないのね。」


要人は、たまらず領子をぎゅっと抱きしめた。


やっと、俺を……俺の愛が変わらないと、信じてくれた……。


全身に力がみなぎる。


「最初から、ありませんよ。どんな境遇になろうとも、領子さまに逢いに参ります。……監視がつくといっても、運転手が同行する程度のことでしょう。……まあ、これまでよりは不自由かもしれませんが、何とでもなります。いえ。します。……だから、領子さまは、思い悩まれませんように。明日も逢いに来ますから。」


予定外の約束に、領子は驚いた。

「だって、そんな……お仕事が……。」

「どうとでもなります。貴女のほうが大事ですから。」



胸が……甘く疼く。

お酒のせいかしら。

身体が……熱いわ……。

さっき、あんなに、いっぱい……抱いてもらったのに……。



もじもじする領子に、要人はニヤリと笑った。

「……そんな顔されると……帰したくなくなりますね。」


いい歳なのに、少年のように、要人もいきり立っていた。
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