いつも、雨
大奥さまがおもしろがって、その手蹟から、2人で書き手を探してみた。
すると元禄期の当主が恋人に、一緒に住みたいからこっちに来てほしいと懇願している内容だった。
当時の家の記録から、当主の正妻の死後3年後ということは、すぐにわかった。
さらにその後も、2人であれこれ調べ、探したが……ある日、大奥さまは「飽きた」と仰った。
何か都合の悪い事実を見つけてしまったのだろう。
大奥さまの隠した文書はわからないままになっているが、要人もまた別の記録から事情を類推していた。
当主の恋人が、要人の先祖だったこと。
そして、その女性が、おそらく当主のご子息の本当の母親だったことをも。
……何も、珍しいことではない。
かつて貴族は、正妻以外にも、幾人もの女性を同じ邸宅に住まわせてきた。
この当主の正妻はその当時の帝の妹の1人だったようだ。
やんごとない正妻を気遣って、それまで囲っていた女性達に暇を使わしていたのだろう。
よくある話だ。
巷に溢れすぎていて……何の感傷も起こらない。
……昔と今は、違う……。
いや、違わない。
何もかわらない。
要人の両親は早くに亡くなったが、天花寺家との縁が切れることはない。
********************
要人が中学3年の梅雨の頃。
天花寺の大奥さまがお倒れになった。
普段から高血圧だった大奥さまは、くも膜下出血を起こされたらしい。
ちょうど居合わせた要人が、すぐに救急車を呼び、主治医に電話して、指示された通りに気道を確保した。
病院にはお手伝いさんが付き添い、要人は邸宅に残り、東京の天花寺家に連絡を入れた。
『はい。天花寺でございます。』
明るい、かわいらしい声だった。
……え……何で?
てっきり、お手伝いの女性が電話に出ると思っていた。
なのに、受話器の向こうに感じる息づかいは、間違いなく領子のものだった。
「竹原です。京都で大奥さまがお倒れになられました。まだ意識が戻られてません。」
『え……。』
領子が、要人からの電話に一瞬はしゃぎ、冷や水をぶっかけられて、オロオロし始めたのが手に取るようにわかった。
すると元禄期の当主が恋人に、一緒に住みたいからこっちに来てほしいと懇願している内容だった。
当時の家の記録から、当主の正妻の死後3年後ということは、すぐにわかった。
さらにその後も、2人であれこれ調べ、探したが……ある日、大奥さまは「飽きた」と仰った。
何か都合の悪い事実を見つけてしまったのだろう。
大奥さまの隠した文書はわからないままになっているが、要人もまた別の記録から事情を類推していた。
当主の恋人が、要人の先祖だったこと。
そして、その女性が、おそらく当主のご子息の本当の母親だったことをも。
……何も、珍しいことではない。
かつて貴族は、正妻以外にも、幾人もの女性を同じ邸宅に住まわせてきた。
この当主の正妻はその当時の帝の妹の1人だったようだ。
やんごとない正妻を気遣って、それまで囲っていた女性達に暇を使わしていたのだろう。
よくある話だ。
巷に溢れすぎていて……何の感傷も起こらない。
……昔と今は、違う……。
いや、違わない。
何もかわらない。
要人の両親は早くに亡くなったが、天花寺家との縁が切れることはない。
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要人が中学3年の梅雨の頃。
天花寺の大奥さまがお倒れになった。
普段から高血圧だった大奥さまは、くも膜下出血を起こされたらしい。
ちょうど居合わせた要人が、すぐに救急車を呼び、主治医に電話して、指示された通りに気道を確保した。
病院にはお手伝いさんが付き添い、要人は邸宅に残り、東京の天花寺家に連絡を入れた。
『はい。天花寺でございます。』
明るい、かわいらしい声だった。
……え……何で?
てっきり、お手伝いの女性が電話に出ると思っていた。
なのに、受話器の向こうに感じる息づかいは、間違いなく領子のものだった。
「竹原です。京都で大奥さまがお倒れになられました。まだ意識が戻られてません。」
『え……。』
領子が、要人からの電話に一瞬はしゃぎ、冷や水をぶっかけられて、オロオロし始めたのが手に取るようにわかった。