いつも、雨
百合子さまの父親が俺だということも、一緒にバレてしまったのか?

……それとも、恭風さまは……もっと前から、ご存知だっただろうか……。


状況がわからず、迂闊なことは言えない。

だが、ごまかすこともできない。


要人はハッキリと言った。

「私が支えます。」



返事はなかった。


電話は突如、切られてしまった。



たぶん、領子さまだろう。

……やはり、私には、頼らないつもりか。


要人のなかに、怒りにも似た青黒いものがふつふつと滾った。


先週も、俺の腕の中で甘えて、泣いていたのに……わかってはいたが、強情なヒトだ。

だが、離婚されたとなれば、話は別だ。

今度こそ、俺のものにする。

絶対に、逃がすものか。



要人は、控えていた秘書の原に告げた。

「東京に行ってくる。領子さまが、離婚して天花寺家に戻られたそうだ。」


原は無表情のまま、少し息をついた。


来たるべき時が来た……。

覚悟していたとはいえ……奥さま……大丈夫か?


「明日の予定はキャンセルできそうか?」

重ねてそう尋ねた要人に、原は嘘をついた。

「社長がキャンセルだと強くおっしゃるなら、そのようにいたします。しかし、明日の会議にはなるべくなら、出ていただいたほうがよろしいかと。」

「……そうか。君がそう言うなら、仕方ない。……何時までに帰れば間にあう?」

無条件に信頼してくれる要人に、原はそれ以上の意地悪はできない。

「遅くとも明日、12時半には会社にお戻りください。資料に目を通していただきます。……このまま、行かれますか?……奥さまには、いつも通りお仕事と説明してよろしいですね?」


まさか、秘書から離婚の引導を渡すわけにはいくまい。

さすがに、要人もそれはあまりにも不誠実だと感じた。

「そうしてくれ。帰ってきてから、私の口から話すことにしよう。……準備も、心積もりも、万端なつもりだったが……いざというと、後ろ髪を引かれるものだな。」


「……へえ。社長にも、まだ、人間らしい情があるんですね。……失言でした。申し訳ありません。」

もちろん失言ではなく、明らかに確信犯だ。

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