いつも、雨
「手厳しいな。あまりイジメないでくれ。……孤立無援なんだよ。」

思わず、要人は弱音を吐いた。


ちっ……と、遠慮のない舌打ちをしてから、原が言った。

「奥さまは、それでも社長の味方ですけど。……わざわざ絵に描いたような幸せを捨てて、社長を頼ろうともしないおかたを、まだ追い掛けるつもりですか。」

「……追い掛けるさ。死ぬまで。……いや、領子さまが先にお亡くなりになったら、墓を掘り返すかもな。」



笑えない。

本当にやってしまわれそうだ。

要人の領子への執着心に、たぶん誰よりも振り回されてきた原は、苦虫を噛み潰したような顔になった。

「後追い自殺されるかと思いました。」


要人はニヤリと笑った。

「後追いはしないだろうな。心中にはいつでも応じるが。」


「はあ?会社はどうなさるんですか!それに、ご家族は……」


ムキになる原を、要人は目を細めて見た。

「……君に任せるよ。」


「はあ!?」

目を剥いて睨み付けた原に、要人は穏やかな表情で改めて言った。

「頼むよ。……君なら、悪いようにはしないだろ。」


「……ふざけないでください。ったく!ああっ!もうっ!……俺は知りませんよ!会社も!あいつも!ちゃんと最後まで面倒見るのがあんたの義務やろうが!」

言うだけ言って、原はギリッと歯ぎしりしてから、踵を返した。

「すみませんでした!頭を冷やしてきます!失礼します!」

振り返らず、拗ねた子供のようにそれだけ叫んで、原は社長室を出て行ってしまった。




後に残された要人は、……何とも言えない気分だった。

原の本音は、要人の領子への暴走には何のブレーキにもならなかった。

むしろ後顧の憂いを絶つことができた気がした。



さて。

お姫さまを迎えに行くか。



要人は、何もかも放り出すように、優秀な秘書に託して会社を出た。







新幹線は雪の影響で遅れていた。

車窓を白く塗りつぶす雪を眺めて、要人はこれからのことを考えていた。
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