いつも、雨
……領子さまも、一筋縄ではいかないが……百合子さまと打ち解けることはできるだろうか……。


実際に要人は百合子と接してきたことはない。

しかし、噂はイロイロ聞こえてくる。

領子も悩んでいたし、……江連からも、イイ話を聞かない。


美人だけど傲慢な娘。

イジメられても卑屈にならない自尊心の高い娘。


……しかし、そのアイデンティティが根底からくつがえされてしまったら……百合子さまは、どうなってしまうのだろうか……。


血の繋がった娘だからと言って、要人には楽観できない。

打ち解けるとも思えない。


……とりあえず……誰とでもすぐに仲良くなれる奴のチカラを借りるか……。


要人は、息子の義人の社交性を高く評価していた。


娘の由未は……少し様子をみたほうがいいかな。


水と油、とは言わないが、百合子と由未には共通点が見つからない。

下手すれば、百合子はますます尊大に、由未は卑屈に拍車をかけてしまいそうだ。


とりあえず百合子さまに逢ってから考えるとするか。


要人は柄になく、緊張していた。






天花寺家に到着すると、キタさんが迎え出てくれた。


「……竹原さん……。」


要人は、涙目のキタさんの肩に手を置いた。

「キタさん。いつかの約束を果たしにきました。……後で、話を聞かせてください。とりあえず、恭風さまと、領子さまにお逢いしたいのですが……。」


「ええ。そうですね。……領子さまは、……恭風さまとの口論の後、お部屋に閉じこもってしまわれて……。」

「……そうですか。では、先に恭風さまにお取次、願えますか?」

キタさんは涙を拭いて、うなずいた。




玄関先には、恭匡(やすまさ)がやって来た。

「恭匡さま。こんにちは。もうすぐ卒業式ですね。」


いつも通り笑顔で挨拶した要人を、恭匡は冷たい眼で見下ろしていた。

「ごきげんよう。悠長だね。竹原。こっちはそれどころじゃないよ。昨日から大騒ぎだよ。」

これまでとはあきらかに違った。

非難がましい口調が、要人の胸に突き刺さる。


……俺のせいだと……わかってらっしゃる……。


心臓がやかましく騒ぎ、変な汗が出てきた。

事態は、要人の想像以上に深刻らしい。


要人は何も言えず、深々と頭を下げた。



恭匡は、とても見ていられないとばかりに、踵を返して行ってしまった。
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