いつも、雨
「……やっと行った。」
「やっと、ねえ。」
小さな領子も、背伸びをして、兄の真似をした。
「ねえや。竹原を呼んでよ。」
恭風がねえやにおねだりするまでもなく、お目当ての少年がどこからともなく現れた。
竹原要人(かなと)。
ハッキリといつからかはわからないけれど、要人の親も、その親も、さらにその親も……代々、天花寺に仕えていたと聞いている。
恭風と領子の母親が「使用人の子」と言っていたのは、この要人を指していた。
「竹原!遊びに行こう!」
要人は、恭風と同い年とは思えない、鋭い目をした精悍な男の子だった。
「いいで。どこ行きたいん?」
「御所の、ほら、川のとこ!」
両親から解放された恭風は、すっかりはしゃいでいた。
「わたくしも……」
領子の訴えは、浮かれた兄の耳には届かなかった。
「お嬢さまは、ねえやとお家で遊びましょうね。」
ねえやが気を遣って、領子を引き留めた。
「竹原、行こう!」
泣きそうな顔の領子を一顧だにせず、恭風は要人を急かした。
でも要人は、後ろ髪を引かれたらしく振り返って、領子の前にしゃがんだ。
「あとで。お土産持ってくる。待っててな。」
そう言って、要人は領子の頭を撫でた。
領子の顔がぱっと明るく輝くのを見て、要人はすっくと立ち上がって、踵を返した。
「おみやげ……。」
うれしそうに繰り返す領子に、ねえやは目を細めた。
「よかったですねえ。お嬢さま。」
領子はねえやを見上げて、にっこりほほ笑んだ。
夕方、恭風はずぶ濡れになって帰って来た。
「まあ、ぼっちゃま!お怪我はありませんか!?」
慌ててタオルを取りに行くねえやに代わって、祖母が玄関先に出てきた。
「……あらあら。鈍くさいこと。あんな小さい小川で、何でそんなに濡れはりますのえ?」
面目なさげな恭風を、要人が庇った。
「すいません!俺が悪いんです!俺がびっくりさせてしもて……」
「……はいはい。そういうことにしときましょ。……ところで、あんた、何持ってはるんえ?」
「やっと、ねえ。」
小さな領子も、背伸びをして、兄の真似をした。
「ねえや。竹原を呼んでよ。」
恭風がねえやにおねだりするまでもなく、お目当ての少年がどこからともなく現れた。
竹原要人(かなと)。
ハッキリといつからかはわからないけれど、要人の親も、その親も、さらにその親も……代々、天花寺に仕えていたと聞いている。
恭風と領子の母親が「使用人の子」と言っていたのは、この要人を指していた。
「竹原!遊びに行こう!」
要人は、恭風と同い年とは思えない、鋭い目をした精悍な男の子だった。
「いいで。どこ行きたいん?」
「御所の、ほら、川のとこ!」
両親から解放された恭風は、すっかりはしゃいでいた。
「わたくしも……」
領子の訴えは、浮かれた兄の耳には届かなかった。
「お嬢さまは、ねえやとお家で遊びましょうね。」
ねえやが気を遣って、領子を引き留めた。
「竹原、行こう!」
泣きそうな顔の領子を一顧だにせず、恭風は要人を急かした。
でも要人は、後ろ髪を引かれたらしく振り返って、領子の前にしゃがんだ。
「あとで。お土産持ってくる。待っててな。」
そう言って、要人は領子の頭を撫でた。
領子の顔がぱっと明るく輝くのを見て、要人はすっくと立ち上がって、踵を返した。
「おみやげ……。」
うれしそうに繰り返す領子に、ねえやは目を細めた。
「よかったですねえ。お嬢さま。」
領子はねえやを見上げて、にっこりほほ笑んだ。
夕方、恭風はずぶ濡れになって帰って来た。
「まあ、ぼっちゃま!お怪我はありませんか!?」
慌ててタオルを取りに行くねえやに代わって、祖母が玄関先に出てきた。
「……あらあら。鈍くさいこと。あんな小さい小川で、何でそんなに濡れはりますのえ?」
面目なさげな恭風を、要人が庇った。
「すいません!俺が悪いんです!俺がびっくりさせてしもて……」
「……はいはい。そういうことにしときましょ。……ところで、あんた、何持ってはるんえ?」