いつも、雨
恭風(やすかぜ)は、顔をしかめた。

「……領子(えりこ)のゆー通りやな……。話にならんわ。」


「領子さまの?……何か……」

思わず顔を上げたら、恭風と目が合った。

思いつめた要人(かなと)の目を見ると、恭風の怒りは、すーっと溶けてしまった。


……あかん……。

わしは、なんぼほど、竹原に弱いんや……。

実の妹は叱り飛ばせても、竹原は……あかん……。


恭風はため息をついて、要人に対面のソファを指差した。

「まあ、座り。」


要人は緊張したまま、ソファに座った。


タイミングよく、キタさんが紅茶を運んできてくれた。

甘い優しい香りが、要人を励ました。


「キタさん。領子はまだ出て来いひんか?……ゴン太やなあ。ほな、百合子の様子見てきて。泣きやんでたら、挨拶に来てもらい。」

恭風はそう言ってキタさんを追いやった。


そして紅茶をすすってから、言った。

「家族を捨てる気ぃか。ええ加減にしぃや。」

「……俺にとって、領子さまより大切なものなんか、ありませんから。」


まるで少年のように青臭いことを言った要人に、恭風は苦笑した。


「ほんま、たいがいやな。……そんなもん、いちいち言わんでも、今さらやろ。知ってるわ。せやけどな、何でそうならそうで、もっと早よ、言わんのや。……いや、それこそ、今さらやな……。」

「……その都度、意思表示はしてきたつもりなのですが……領子さまが橘家に嫁がれるのを阻止することはできませんでした。……私の、力不足です。」

まるで教師か親に謝罪と言い訳でもしているように、要人はうなだれた。


「あきらめが悪いにもほどがあるわ。あんたも。領子も。阿呆やろ。……どうするんや?こんなこと、言いとぉないけどな、いっそ、すっぱりあきらめたらどうや?領子はあんたとは、死んでも再婚せんてゆーてるで。」



さすがに、要人は傷ついた。


……死んでも……か。

はは……。


なんて、おかただ……。

愛してるくせに。

愛し合っているのに……何で、そこまで頑ななんだよ。
< 301 / 666 >

この作品をシェア

pagetop