いつも、雨
がっくりと肩を落とす要人を、恭風は哀れむように見下ろした。

「……まあ、冷静になり。あれだけ優しい、ええ奥さんと、かわいい子供らを、不幸にしたらあかん。……家族の犠牲の上で、無理矢理、領子と一緒になったかて……絶対、幸せになんかなれへんで。あいつ、そんなに図太くないからな。強いようで……弱いで。」


「……幸せなんか、もとより望んでません。領子さまとは、共に、地獄へ堕ちる所存です。」



恭風は、まじまじと要人を見た。

かつて憧れてやまなかったクールなヒーローが、……いや、今でも心から認めている社会的成功者が……ただの、恋にとち狂った哀れな若造でしかない……。


百年の恋も冷めるわ……。


恭風は、こみ上げてくる変な笑いに肩を揺らした。



要人は自分の滑稽さに気づいて、恥入った。

「……すみません。」

思わずそう謝ったけど、気まずさは消えない。


恭風は手をひらひらと扇子のように振った。

「熱い熱いわ。……しかしなあ、真面目な話、領子の兄としては、地獄行きなんか望んでへんねんわ。バツイチ子持ちでも、幸せになってほしいんや。……わかるやろ?」


要人は、素直に頷いた。

「私も、領子さまの幸せを心から願っています。……あのかたが幸せなら……相手が俺でなくてもいいと、本気で思っていましたから。」


恭風は、ふーっと、息をついた。

「一番、難しいやん、それ。領子もあんたも、しつこいしつこいからなあ。……しつこいついでに、あんたが独身のまんま待っててくれてたら、話は早かったのに。」

「……面目ありません。」


もし、ずっと……領子と離れることなく……そばにいられたなら、あるいは独身を貫いたかもしれない。

しかし、領子は要人に、成功して子供を儲けることを望んだ……。

その時その時、領子の望みに添ってきた。


結果がこれだ。


……では、今回は?

領子さまは、俺に何を望まれるんだ?

離婚するな?

それでは、ご自分はどうなさるおつもりだ?




「別に再婚せんでええんちゃう?佐那子さんには悪いけど、離婚するよりは……内緒で、領子の面倒みたってくれたら、俺はそれでええけどなあ。」

呑気な口調で、ひどいことを恭風は言った。
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