いつも、雨
しばらくして、キタさんがティーカップを下げに来た。

キタさんの案内で客間に通された要人は、畳に大の字になって目を閉じ……そのまま少し眠ってしまった。

エアコンで部屋は暖まっているとは言え雪の降る2月に……風邪を引いてしまうかもしれない。

頭ではいけないと思うのだが、どうしても目が開けられなかった。



ひらひらと……雪が舞い降りるように、天女が現れた。

多少寒さを感じていた要人は、ふわりと温かさに包まれた。


……春が来た……。

要人の寝顔が、ほほ笑んだ。


「もう。無茶ばっかりして。……風邪ひくわよ。」


……領子さまの声……。

反射的に、要人は目を開いた。

驚いた顔をして、領子が自分を見つめていた。


「領子さま!」

「しっ。」

叫んだ要人の唇を、領子は人差し指でふさいだ。


要人は領子の手首を掴むと、自分の胸に抱き寄せた。

抵抗することもなく、領子は要人を覆う毛布の上に倒れ込んだ。


「……寝たふりしてたの?」

声になるかならないかの小声で、領子は要人に聞いた。


「いや。寝てしまってた。これ、掛けてくれたんや?ありがとう。……おいで。」


要人は領子を腕に抱いて、毛布の中に一緒におさまった。



「静かだから覗いたら、ずいぶんと薄着で寝てらっしゃるんだもの。」

くすっと笑った領子に、ようやく要人はホッとした。


……笑ってらっしゃる……。

それだけで、いい。



「……大変でしたね。」


要人の優しいいたわりに、領子の目が潤んだ。


「わたくしは……覚悟していましたから。……百合子にはかわいそうなことをしてしまいました。これからは、母親として、百合子のことを一番に考えて生きたいと思います。」


領子の髪を撫で、頬を撫で、目尻に滲んだ涙に触れた。


「協力させてください。」


要人の溢れんばかりの感情を抑えた言葉に、領子はほほ笑んだ。


「ありがとう。竹原の気持ちは充分わかってますから。……どうか、わたくしを支えてください。でも、わたくし以上に、ご家族を大切にしてください。それがわたくしの望みです。」


領子の結論だった。
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