いつも、雨
要人は、少しためらって、それからダメ元で言ってみた。

「お叱りを覚悟で申し上げますが……家内には、領子さまのことも、百合子さまのことも、既に話しています。離婚も了承してもらっています。……それでも、俺と再婚する気になれませんか?」


領子の眉毛がつり上がった。

「なんで!?……もうっ!どうして、言っちゃったの!?ひどい!私、竹原と再婚するなんて、ひとっことも言ってないのに!」

本気で怒ってるらしく、領子は声を荒げて、起き上がった。


要人は苦笑した。

「……声が大きいですよ。領子さま。」

「竹原のせいでしょっ!最低!勝手なことしないでっ!」

領子は、ぷんすか怒って、毛布から這い出てしまい、そのまま障子のそばまで後ずさりした。



……文字通り、逃げられてしまった……か……。

要人も起き上がって毛布をたたみながら言った。

「本当に、最低ですね。領子さまが離婚なさるのを期待して、俺のほうも身辺整理をしたつもりだったんですけどね。」

「ダメよ!でも、まだ離婚はしてないんでしょう!?お子さんたちも、ご存じないのよね?だったら、嘘をついたとか、適当に誤魔化して、わたくしとのことはなかったことにして!奥さまに許してもらって!」


ボロボロと、領子の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。


要人は不思議な気分で、領子の涙を見ていた。

「……なかったことにはなりません。でも、これでいいと思っています。領子さまの家庭が壊れてしまったのに、俺だけがのうのうと仲良し家族の振りを続けることなんかできませんよ。……痛み分け、ってことで、いいんじゃないですか?」


領子はとても納得できないらしい。

「そんなの変よ。竹原とわたくしは、いくら苦しんでも自業自得だけど……奥さまには何の落ち度もないのに……。どうして、奥さまにまで、つらい想いをさせちゃったの?」



さすがに、それには何も言い返すことができない。

要人自身も、妻の佐那子には負い目しかない。

この1年、佐那子は要人を一言も責めることなく、これまで通りに、いや、これまで以上に甲斐甲斐しく世話を焼き、笑顔で接してくれた。

要人の佐那子への感謝と愛情がいや増したことは、否めない。


だが、それでも……領子への想いの強さには敵わないのだが……それは好意の押し売りでしかないのだろう。
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