いつも、雨
既視感……。

いえ、歴史は繰り返す……?

……まさかね。



ぶるっと、領子(えりこ)は首を振って、目の前の事態を無理やり否定しようとした。




花曇りのどんよりとした空、満開の桜の下。

幼い美少女は、利発なイケメン少年に恋をした。


百合子は、自分が母の実家の使用人の家系の男……と見下した男の息子に、あろうことか、一目惚れしてしまった。


「はじめまして。百合子ちゃん。竹原義人です。」

「……義人……さん……。」

百合子の頬が紅潮し、目が潤み、声が震えた。




……おいおいおい。

俺のことは「竹原」と呼び捨てにして、義人にはご丁寧に「さん」をつけるのか!

要人(かなと)の大人げないモヤモヤは、息子へのヤキモチか、名乗れない実の娘への行き場のない独占欲か……それとも、異母兄妹が恋愛関係に陥る危惧か……。



「百合子が、おとなしなってしもたわ。」

既にお気に入りの酒でご機嫌さんな恭風(やすかぜ)が、からかった。


百合子は恭風をキッと睨むと、

「失礼します!」

と、断って、スタスタと池のほうへ行ってしまった。



「お兄さま。からかうのはやめてください。……ごめんなさいね、義人さん。不躾な娘で。……懲りずに、仲良くしてください。」

美しい領子にそう懇願されて、義人はニコッと好いたらしい笑顔でうなずいた。

「大丈夫です。初対面で恥ずかしがってはるだけやと思います。……池に落ちはらへんか心配なんで、俺、見てきます。」

「まあ、ありがとう。優しいのね。」

領子は、目の前にあったお菓子をお懐紙に包んで、義人持たせた。


「ありがとうございます!百合子ちゃんと一緒にいただきます!」

そう言って、義人は百合子を追って走って行った。
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