いつも、雨
明日から4日間、竹原家は北海道へ家族旅行の予定だ。


要人は時計を見て、すぐに電話をかけた。

秘書の原と、懇意の私立学園の理事長、続いてもう一度、原に、手続き代行を頼んだ。



「……いつも、原さんにはご迷惑をおかけしますね。」

領子にイイ感情を抱いていない男に、世話になり続けるのは、けっこう気が重い。


しかし、領子が要人と再婚しないとわかってからの原は、むしろ領子に協力的になっている。

原にとって大事なことは、佐那子の立場と平安なのだろう。

つまり、領子と要人が佐那子を尊重し、コソコソしている分には、原が機嫌を損ねることはないようだ。


「しかし、他の者に頼んだり、私が動くと、そのほうが原の機嫌を損ねるんですよ。大丈夫。熱心な男ですから、今では、俺より領子さまや百合子さまの好みを熟知していますよ。安心してお任せください。」

要人はそう言って、腕の中の最愛の女性に口づけた。


領子が京都に住む……。

確かにリスクは増えるのが、それをはるかに凌駕する悦びと期待で心がはずんだ。





「それにしても……優秀なだけでなく、お優しいのね。義人さんは。」

ひとしきり貪り合ったその後で、領子はそうつぶやいた。


自分への睦言ではなく、息子を褒めた領子に、要人は拗ねた。

「俺より?」


たった一言だけど、子供のような嫉妬を感じて、領子はほほえんだ。


「お馬鹿さんね。……竹原とは違うタイプでしょ?」

「まあ……、ずいぶん、違いますね。」

要人は認めはしたものの、シニカルに息子を評した。

「何でもできるし、人付き合いも上手い。……でも、何をすべきかわからず、自分を持て余しているようです。自信過剰で自惚れ気味かな。」

「あら。竹原だって、自信家じゃありませんか。」

くすくすと、領子は笑った。


「実績が違います。」

そうは言ってみたけれど、小学生男子と張り合う自分がおかしくて、要人も笑った。
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