いつも、雨
「……竹原は、ご家族やわたくし達には優しいけれど……世間的には怖いヒトなのでしょう?でも、義人さんは、誰に対しても、分け隔てなくお優しいと思いますわ。……なのに、甘いだけじゃなく、ちゃんと百合子のことは叱ってくださいますの。飴と鞭?……どんなに厳しいことを仰っても、百合子の小さな努力や変化を認めて誉めてくださるから……竹原とは違うタイプだけど、リーダー気質だと思うわ。」

好意的に領子は言ったが、要人は少し心配になった。

「あいつ、百合子さまに、いったい何を……」


慌てて領子は、取りなした。

「あら。ちゃんと上手に言ってくださってるみたいよ?……妹さんがいらっしゃるから、女の子の扱いかたを心得てらっしゃるんじゃないかしら。」


要人は、苦笑した。

「……それはそうらしいです。ちょっとモテるからって、イイ気になりすぎて、図に乗ってる気もしますが。」

「まあ。そのへんも、昔の竹原と同じね。」

領子はそう言って、笑った。








夏休みが終わった。


百合子は、京都の私立小学校に編入した。

東京から来たホンモノのお嬢さま、しかもとびきりの美少女は、どうしても打ち解けにくく、遠巻きに眺められがちだ。


しかし、百合子自身が変わろうと努力していた。


自分から「おはよう」を言うことはできなかったが、笑顔で挨拶を返すよう努めた。

話しかけられたら、ちゃんと答えて会話を成立させた。


……幼少期から伊達にオトナの社交の場を経験してきたわけではない。

変な意地と自尊心さえ飲み込めば、百合子はちゃんとクラスの輪に溶け込むことができた。


人気のある男子たちからのアプローチを、好きな人がいるからと淡々と断り続けたのも、結果的には正解だったかもしれない。

百合子が恋敵にはならないことが周知されると、女子たちは目に見えて警戒心を解いた。







秋には、購入する土地が決まった。

北野天満宮の、紙屋川を挟んだ西隣の閑静な住宅街の屋敷を求めた。


建物は老朽化が酷く、取り壊して建て直ししなければいけなかったが、庭はそのまま残したいと領子は望んだ。

よく手入れされた広い庭には、美しい苔の絨毯が隙間なく覆い、四季の花々の咲く木々が配置されていた。

池はなかったが、美味しい井戸水も顕在だった。
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