いつも、雨
弾けるように、領子は再び笑い出した。

笑いのツボに入ってしまったようだ。


お腹をかかえ、涙を浮かべ、快闊に笑う領子に……一夫はハッキリと恋に落ちた。



……そうかぁ……わし……面食いやったんやなあ。

身の程知らずにも程があるわ。

こんなべっぴんさん、無理無理。

……いや。

棟上げのときは、いかにも高嶺の花っちゅう感じやったけど、今、目の前で大笑いしてるこのヒトは、むしろ、かいらしいかいらしいわ。


この笑顔、もっと見たいなあ。

……はは……。



他人に、とりわけ女性にそんな風に思ったのは、初めてのことだった。

自覚すると、笑えてきた。


領子の笑い声に釣られるように、一夫も呵々と笑い出した。



ひとしきり2人で笑い合ってから、領子が咳をした。

咳はなかなか止まらず、領子はぜーぜーと肩で息をしている。

慌てて、一夫は領子の背中をさすってやった。



……うーわ、どさくさに紛れて、わし、何してるんや!


一夫は内心パニック状態だった。


そのせいか、いやらしさは微塵も感じず……領子もまた、珍しく、男の手のぬくもりと優しい刺激を頼もしくすら感じた。



「ありがとうございます。……ああ、苦しい。こんなに笑ったの、たぶん、生まれて初めてですわ。お腹がよじれそう。気管支も、何だか喘息みたいになってるわ。」

「大丈夫ですか?お嬢さん、意外とゲラなんですねえ。」


……ゲラ?

ゲラゲラ笑うこと?

笑い上戸って意味かしら。


いえ、それより……お嬢さんは、ないわぁ。



領子はまたこみ上げてくる笑いに肩を震わせた。

「……わたくし、33才よ。娘もいます。……さすがに、そんな歳じゃありませんわ。」

「年上!?」

一夫は、喫驚した。


「……え……宇賀神さん……わたくしよりずっと上かと……」


領子は、つっぷして、また笑い出した。



……やだ、もう……何で、こんなに笑ってしまうの。

さっきから、わたくし、失礼すぎるわ。


でも、このかた……宇賀神さん……楽しいわ。

たぶん竹原やお兄さまと同じぐらい年上だと思っていたのに……年下……。




一夫は、再び領子と一緒に笑い、領子が咳き込むと、背中をさすった。


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