いつも、雨
……領子には、物心つく前から、いつも身の回りの世話をしてくれたキタさんがいた。

そして、好きになったただ一人のヒト、要人もまた、領子が何かを感じる前に、常に先回りして、何でも惜しみなく与えてくれる。

領子は何も口にしなくても、一から十まで気づいてもらえることに慣れていた。


しかし、オトナになるにつれ、2人の献身は極めて稀有だということがわかってきた。

学校の友人たちも、兄も、結婚した元夫も、大好きだった元舅も、実の娘の百合子でさえ、領子の気持ちはわからないし、わかろうともしないだろう。

むしろそれが当たり前なのかもしれない。

領子自身、百合子の心に添いたいと常々思いながらも、娘が理解できない毎日だ。



「……気にする……必要ないんですね……。」

領子は、そう呟いた。


一夫は二カッと笑った。



……クマさんみたい。

領子も釣られて、笑顔になった。




「えりちゃんと、娘さんが住まはるん?女2人暮らし?」

一夫にそう聞かれて、領子はふるふると首を横に振った。

「いえ。姉のようにずっとお世話になっている女性も一緒です。それから、通いでお料理とお掃除とお洗濯をしてくださるかたがいらっしゃるそうです。」


「へ?……女3人も居って、誰も家事しはらへんの?」

一夫はポカーンとしていた。


領子の頬が少し赤くなった。


返事できず恥じ入っている領子は、最初に抱いた印象とはかけ離れた、ただの可愛らしい女の子だった。

「いや、全然、責めてへんで。堪忍。……深窓のお嬢さまって、えりちゃんみたいなヒトのことを言うんやなあ。……でも女所帯は大変やな。電球1つ変えるにしても、何なりと言うてくれたらエエから。」

一夫はものすごく気軽にそう言った。


領子は、こっくりとうなずいた。

「ありがとうございます。そうおっしゃっていただくと心強いですわ。……植木屋さんは毎月来てくださるけど、大工さんはそうじゃありませんものね。」


「いや。来るで。鬱陶しくなかったら、毎月、御用伺いに来るわ。アフターサービスと営業や。」

どこまで本気なのか、一夫は笑顔でそう言った。



……京都人特有の、その気がなくても断わらない話術かしら。


領子は、よくわからないままに、話を合わせた。


「ありがとうございます。では電球が切れても、宇賀神さんがいらっしゃるのをお待ちしてますわ。」
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