いつも、雨
「おばあさまのこと、大好きでいらしたのね。……毎朝なんて、素敵……。」

「いや、まあ、えりちゃんみたいに丁寧にもてなしてくれはったわけちゃうけどな。身体にいいからって、薬みたいに毎朝飲まされてたんや。抹茶の後に牛乳も。胃にいいらしいわ。……でも、子供の頃やなくて、これからしたほうがええんやろうなあ……あれ……。」

「……毎朝……。」


領子は、少し首を傾げて……それから、うなずき、一夫が2杯飲んだ後の茶碗を清めてから、自分の分のお茶を点てて、飲んだ。


そして、一夫にニコッとほほ笑んだ。


「朝、飲むと、目も醒めますものね。いいこと尽くしだわ。良いことを教えていただきました。これから、毎朝お茶を点てて飲むようにいたしますわ。娘にも飲ませませす。……宇賀神さんも、いつでも飲みにいらしてください。常備しておきますわ。」


何の気なしの領子の言葉を、一夫はがっちり捕まえた。


「ほんまですか!おおきに!ありがとう!ほなぁ、現場行く前に、寄せてもらうわ。」



……いつ……かしら?


多少疑問を感じたけれど、領子はキープした笑顔のままうなずいた。




こうして、一夫は毎朝、領子の抹茶を飲むためにやって来るようになった……。





「……図々しい……んでしょうけど……なんだか、憎めないと言うか……楽しいかたですね。宇賀神さん。」

キタさんは、そんな風に一夫を評した。


「お母さまに気があるんじゃなくて?……ご近所の噂にならないといいけれど。」

子供のくせに、眉をひそめて百合子はそうこぼした。



……百合子は、領子と要人のことを、まったく知らない……。



「宇賀神さんに失礼ですよ。……女所帯だから、気に掛けてくださっていらっしゃるのだと思いますわ。」

領子はやんわりと百合子をたしなめて、そう諭した。


実際のところ、懸想されたり、特別優しくされることに慣れきっている領子には、とりたててどうというほどのことではなかった。

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